ドーマー条件、NPG条件、Bohn条件

先週は2011年に基礎的財政収支プライマリーバランス)を黒字化するという政府目標が達成できそうになくなったというニュースが話題になった。

プライマリーバランスと財政の維持可能性の関係についてはBohn条件が有名だが、以前、そのBohn条件について簡単な証明をしたことがあったので、今日はそれをアップしてみる。
なお、この資料は、日本の財政は維持可能ではないか、という少し前に話題になった論文を友人に紹介する時に使用したものである。そのため使用する記号もその論文に準じている。

ドーマー条件

本題のBohn条件に入る前に、基本的な数式を説明し、併せてドーマー条件を紹介する。
政府の予算制約式は
 (Gt + itBt-1) – Tt = (Bt – Bt-1)                         …(1)
      T:税収、i:利子率、B:債務残高
      G:利払いを除く財政支出

ちなみに、Tt – Gt がいわゆるプライマリーバランス基礎的財政収支)。

Btを左辺に持ってくると
 Bt = Gt – Tt + (1 + it)Bt-1

両辺をGDPtで割り、GDP成長率をntと置くと
 \frac{B_t}{GDP_t}=\frac{G_t}{GDP_t}-\frac{T_t}{GDP_t}+\frac{1+i_t}{1+n_t}\frac{B_{t-1}}{GDP_{t-1}}

  ( ∵GDPt = (1 +nt)GDPt-1 )

各項目のGDP比を小文字で表すと
 b_t=g_t-\tau_t+\frac{1+i_t}{1+n_t}b_{t-1}                           …(2)

it=i、nt=nとして(=金利と成長率が時間によらず一定と仮定)、
 b_T=\sum_{t=1}^T\{\left(\frac{1+i}{1+n}\right)^{T-t}(g_t-\tau_t)\}+\left(\frac{1+i}{1+n}\right)^Tb_0
あるいは
 b_T=\left(\frac{1+i}{1+n}\right)^T\left[\sum_{t=1}^T\{\left(\frac{1+n}{1+i}\right)^{t}(g_t-\tau_t)\}+b_0\right]             …(3)


成長率が金利を上回る場合(i < n)*1、(3)式より長期的には債務をgrow outできる。これをドーマー条件という。

NPG(No Ponzi Game)条件

  • 最終的な債務の割引現在価値がゼロもしくはマイナス(=資産がゼロもしくはプラス)になるという条件*2

(3)式でいえば、T→∞の場合にlim bT/(1+i)T≦0となる状態*3


ドーマー条件が満たされていれば、この条件も満たされるが*4、それ以外でも
 \sum_{t=1}^\infty\left(\frac{1+n}{1+i}\right)^t(\tau_t-g_t)\geq b_0                         …(4)
となればこの条件は満たされる。
(ちなみに、等号の場合は横断性条件[transversality condition]
=現在の債務が将来の収入(プライマリーバランス)の現在価値に等しいという条件)

Bohnの条件

[簡単な証明]

(2)式でgt - τtプライマリーバランス)をstと表し、stをst-1+p(bt-1-bt-2) に置き換えると(p>0 ・・・プライマリーバランスを前期の債務の増分のうち割合pだけ改善する)
 st=st-1 + p(bt-1-bt-2)
  =st-2 + p(bt-2-bt-3) + p(bt-1-bt-2)
  ・・・
  =s1 + p(bt-1-b0)
より*5

よってNPGならびに横断性条件は成立

すなわち、債務増加に応じて一定比率財政を改善するというルールを適用すると、NPGならびに横断性条件が成立することが示された。




[参考文献(サイト)]

*1:この場合、動学的効率性を満たしていないではないか、という疑問に関しては、高橋洋一氏は、ここでいう金利国債利子率であるが、動学的効率性で問題になる資本収益率はリスクプレミアムを含むためにその金利より高くなる、という見解を示している。(高橋洋一「論点 政府部内で高まる成長率・金利論争を斬る」『週刊東洋経済』2006年2月25日号)

*2:[2016/5/21]uncorrelated氏の指摘に基づいて「最終的には債務」→「最終的な債務の割引現在価値」に修正。

*3:[2016/5/21]左辺に「/(1+i)T」を追加。

*4:[2009/11/8追記]ただし、プライマリーバランスが一定範囲内に収まっている場合。プライマリーバランスが例えば(n-i)Bt-1という経路を辿れば、(2)式よりbt=bt-1=…=b0となり、NPG条件は満たされない。[2016/5/21削除]

*5:以降はwordの数式を平文に直すのが面倒なのでそのまま画像で貼り付け。