政府債務と課税のp理論

というNBER論文をサージェントらが上げているungated版)。原題は「A p Theory of Government Debt and Taxes」で、著者はWei Jiang(香港科技大)、Thomas J. Sargent(NYU)、Neng Wang(コロンビア大)、Jinqiang Yang(上海財経大)。
以下はその要旨。

An optimal tax and government borrowing plan in a setting with tax distortions (Barro, 1979) locally pin down the marginal cost of servicing government debt, called marginal p. An option to default determines the government’s debt capacity and its optimal state-contingent risk management policies make its debt risk-free. Optimal debt-GDP ratio dynamics are driven not only by three widely discussed forces, 1.) a primary deficit, 2.) interest payments, and 3.) GDP growth, but also by 4.) hedging costs. Hedging fundamentally alters debt transition dynamics and equilibrium debt-capacity, which are at the center of the recent 'r-g' and debt sustainability discussions. We calibrate our model and make comparative dynamic quantitative statements about the debt-GDP ratio transition dynamics, equilibrium debt capacity, and how long it will take the US to attain debt capacity.
(拙訳)
税の歪み(バロー、1979*1)が存在する環境下での最適な課税と政府借入の計画は、限界pと呼ばれる政府債務の元利利払いの限界費用を、局所的に定める。債務不履行のオプションが政府債務の限度を決定し、最適な状態依存リスク管理政策により政府債務は無リスクとなる。最適な債務GDP比率の推移は、広く論じられている3つの要因、1)基礎的財政収支、2)利払い、3)GDP成長率だけでなく、4)ヘッジコストによっても駆動される。ヘッジは、最近の「r-g」および債務持続性の議論の中心にある債務の遷移動学と均衡債務限度を根本的に変える。我々は、我々のモデルをカリブレートし、債務GDP比率の遷移動学、均衡債務限度、および、米国が債務限度に達するまでどのくらいかかるかについて、比較動学の定量的な記述を行う。


以下は、ungated版の導入部に記されている、最適な均衡債務GDP比率の過程bの式。
 change of b = primary deficit + interest rate (r) × b - growth (g) × b + hedging cost
最初の3項だけを見ると政府債務の通常の推移式であるが、4項目が加わっていることが今回の論文の味噌となっている。即ち、政府にとっては債務が決定論的(=非確率論的)に推移するのが最適であり、そのためにキャッシュフロー過程がGDPの過程と同じである危険資産*2でヘッジすることになる、というのがこの論文の主張で、その危険資産のリスクプレミアムにbを乗じたものが4項目のヘッジ費用となる。

以下はモデルをカリブレートしたbの推移図。

パネルAは2000年から2020年までの実際の債務GDP比率の推移(黒破線)とモデルカリブレーション(青実線)の比較で、著者たちは上手く近似できている、としている。
パネルBは金利r=1%とr=0.5%の場合の2021年以降のbの推移で、r=1%の場合(青実線)は2088年に限度値1.99に達する。一方、r=0.5%の場合(赤点線)、bの増加はより急となり、2110年に限度値2.66に達する。
パネルCは政府の成長率gが恒久的に3%から2%に低下した場合で(青実線→赤点線)、その時は減少した限度値(1.99→1.33)に2050年に到達する。
パネルDはリスクプレミアムξが予期せず恒久的に4%から3%に低下した場合で(青実線→赤点線)、その時は債務の限度値は1.99から3.98に上がり、到達するのは1世紀以上後の2140年となる。

*1:これ

*2:これについて論文ではシラーの以下の著書を参照している。

ちなみに本ブログではここでシラーのそのアイディアを取り上げたことがある。