GDP連動債構想

昨年末に、ロバート・シラーが持論のGDP連動債構想についてNYTに書いた*1。彼の構想するGDP連動債とは、米国の今年の名目GDPが14兆ドルとすると、その一兆分の1の14ドルを年間の配当として支払う証券である(ただし支払いは四半期ごとに行なう)。彼はこの証券をtrillsと呼んでいる。
彼によると、S&P500の配当利回りは現在2.3%であるが、その配当の1957年以来の成長率は実質ベースで1.1%に過ぎなかったという。それに対し、同期間のGDP成長率は3.1%である。従って、trillsの配当利回りはもっと低くなる、と彼は主張している。言い換えれば、この債券は、発行者に対し、配当に比して多額の資金調達をもたらす、ということである。


このシラーの主張に対し、フェリックス・サーモンが猛反発した。彼がこの構想に反対する理由は以下の通り。

  • 名目GDPの値はぶれやすい。
  • 価格がぶれやすい。単純な定率成長モデルを考えた場合*2、割引率と成長率の値が狭まるに連れて価格は無限大に発散する。たとえばDavid Merkelの見積もりによると、割引率として仮想的な米国のコンソル債の利回りを考えた場合、その値は4.4%となる。成長率を3.4%と見積もると、その差(スプレッド)は1%に過ぎない。価格は配当をこのスプレッドで割ったものになるので、そのスプレッドの変動によって大きく変動する*3
  • 売り手側を考えても、そもそも国や個人は、自分のパフォーマンスに連動する債券を自分で売ることはできない、という問題がある(支払いを少なくしようとするインセンティブが働く可能性があるので)。
  • S&P500は米国経済の完全な指標ではないかもしれないが、投資に使うには十分ではないか。

*1:日本のブログではここが取り上げている。

*2:cf. ここ

*3:ちなみにシラーの記事からリンクされている2つの論文(これこれ)でも理論価格が計算されているが、成長率や割引率の自己相関の考慮といったテクニックを施しているものの、基本的にはやはり定率成長の配当割引モデル(ゴードンモデル)を使用している。