投資に関する9つの考察

以前のエントリで簡単に触れたが、昨年12月半ばにマンキューが投資に関する興味深い考察をしているので、以下に訳してみる。



  1. 上のグラフは、設備とソフトウェアへの実質投資の四半期ベースの前年同期比だ。左軸のスケールに注目。投資支出とは非常に変動性が高いものなのだ。これは景気循環に関する確立された標準的事実の一つである。
     
  2. 投資は今回の景気後退期で特に弱含んでいる。住宅投資が弱いというならば、驚くべき話では無い。そもそもこの景気後退は住宅市場での出来事がきっかけなのだから。しかし、グラフに示されている通り、企業の投資も非常に弱くなっている。実際、このグラフ上では、今回は1982年のような以前の深刻な景気後退期よりも遥かに弱い。
     
  3. なぜ企業の投資がここまで落ち込んだのか? 理由の一つは、景気後退が深刻で、投資が経済全体の状況に反応した、というものだ。別の理由は、貸し渋りが資金調達を困難にした、というものだ。また別の理由は、政策の状況が企業にとって逆風になっている、というものだ。ここで私が指しているのは、最低賃金引き上げ、自由貿易からの後退のように見える動き、従業員への医療保険提供を義務付ける提案、現在進行中の巨額の財政不均衡の帰結として想定される将来の税率引き上げ、という一連の政策である。こうした要因すべてが合わさって、企業の投資を抑える方向に働いた。
     
  4. 最近のNYT論説で、財政刺激としては、現在の形よりも投資減税(investment tax credit=ITC)の方が望ましいと述べた。その理由の一つが、論説には書かなかったが、この最近の企業投資の弱さである。刺激策に費やされている金額を考えると、そうした投資減税を実施していればかなりの規模になっていたはずだ。上のグラフで描画した投資の額は、年間1兆ドルといったところである。従って、ざっくりした計算例を示すと、もし議会が2009年に20%、2010年に10%の投資減税を認めていたら、財務省の支出はおよそ3000億ドルになっていた。その場合、基本的に、財務省は2009年の投資の20%を負担し、2010年にはその半額を負担していたことになる。
     
  5. ゼロ金利制約(つまり「流動性の罠」)のもとでこの政策が効いたかどうか疑問に思う読者もいるかもしれない。実際のところ、ゼロ金利制約の意味は完全には理解されていないし、理解している内容も、そのほとんどが、証拠の乏しい定型化された理論モデルに基づいているに過ぎない。しかしながら、そうしたモデルは、投資減税が立派に効果を上げると述べている。事実、ゼロ金利制約の神童Gauti Eggertssonも、投資減税について、そうした状況下で意味のある政策だ、とお墨付きを与えている
     
  6. 最も物議を醸した私のNYT論説では、経済に必要なのはマイナスの実質金利だと述べた。それはインフレにより実現できるが、時限的な投資減税は似た効果を生み出す。一時的に資本財の実効価格を低下させ、それについて期待インフレを創り出すわけだ。上述の数値例を敷衍すると、新規の資本財の実効価格は直ちに20%下落し、期待インフレは10%高まる。名目金利がゼロに留まるならば、新規の資本財で測った実質金利は-10%となる。これが、時限的な投資減税が投資支出を刺激する効果についての一つの見方だ。
     
  7. 理論は理論として、実際にうまく行くだろうか? 「ポンコツ車に現金」計画は、自動車の購入を促進、ないし少なくとも加速したと多くの人に思われている。投資減税も同様になるだろう。ただし対象は個人の自動車ではなく企業の投資だが。非常に限定された政治的に選択された業界を対象にする代わりに、投資減税は投資全般に働きかける。短期的には総需要にプラスの効果を与え、中長期的には総供給にプラスの効果を与えるはずだ。
     
  8. 振り返ってみれば、1960年代初め、投資減税が経済を回復させるケネディプランの一部だったことを思い出そう。歴史の記録によれば、ケネディはこの減税のアイディアを、先日他界した経済学者ポール・サミュエルソンの助言により得たという。もしオバマ政権が方針を変更して大規模な投資減税を試みるならば、サミュエルソン教授を記念して、その減税をポール・サミュエルソン記念投資減税と呼ぶことを提案したい。
     
  9. 追記:このアイディアが気に入ったかな? このテーマについてさらに知りたければ、Bruce BartlettHal Varianも参照されたし。