なぜ米国のインフレは他の国より高いのか?

という小論がSF連銀のエコノミックレターとして上がっている。原題は「Why Is U.S. Inflation Higher than in Other Countries?」、著者はÒscar Jordà、Celeste Liu、Fernanda Nechio、Fabián Rivera-Reyes。著者たちの答えは簡単で、米国ではコロナ禍対策で大盤振る舞いを行った結果、個人可処分所得が他国よりも上がり、それがインフレにつながった、とのことである。

以下はコアCPIの米国とOECDサンプル集団*1平均との比較グラフ。
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以下は実質ベースの個人可処分所得の米国とOECDサンプル集団平均との比較グラフ。
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以下は米国のコロナ禍対策なかりせばの場合のコアCPIの推移と、実際のコアCPIの推移との比較グラフ。前者については、コロナ禍対策に消極的な国を対照群として組み立てたフィリップス曲線モデルで推計したとの由。ただし失業率のような労働指標はロックダウン政策の影響があって使えないので、ここでは個人可処分所得ベースのギャップを説明変数に用いたとのことである。
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ここから著者たちは、米国の積極的なコロナ禍対策が21年第4四半期のインフレを3%ポイントほど押し上げた、としている。

タイラー・コーエンがこの小論にリンクして民主党系の経済学者の大多数がサマーズの警告に耳を傾けずに昨年のバイデンの2兆ドルの追加刺激策を支持したことを槍玉に挙げ、これは近年最大の経済政策の誤りだった、としている。そのサマーズもツイートで小論にリンクし、昨年初め時点に自分が計算した悪性インフレ予測と符合する結果で、概ね正しいようだ、と述べている。

ただ、小論の結論部の最後で著者たちは以下のように述べており、必ずしもコーエンやサマーズと同じ教訓を読み取ってはいないようである。

However, without these spending measures, the economy might have tipped into outright deflation and slower economic growth, the consequences of which would have been harder to manage.
(拙訳)
しかしながら、こうした支出政策を取らなかった場合、経済は正真正銘のデフレと成長鈍化に陥っていたかもしれず、その場合の経済の運営は一層困難だったであろう。

*1:カナダ、デンマークフィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェースウェーデン、英国。