大都市は今後どうなるのか?

都市に関する論考をもう一丁。歴史家のハロルド・ジェームズが、表題のProject Syndicate論説(原題は「What Next for Great Cities?」)でメガシティについて考察している(H/T Mostly Economics)。

彼が言うには、ロンドン、ニューヨーク、香港のような大都市は、今世紀初頭まで、人々と資金とアイディアが流入することにより、金融センターとしてだけではなく文化の中心地、創造の巣としても繁栄した。だが、そうした都市の生活を手に入れられない、もしくは望ましくないと思う地方と都市との間に対立が生じた。ブレグジット、トランプ現象、そして香港と中国本土の対立はその表れだとジェームズは言う。

また、都市の中でも、高品質な住居を手に入れられるグローバルエリートと、周縁の混雑した環境に居住し、不適切かつ信頼できない公共交通手段での長距離通勤を強いられる一般層との分化が生じた。さらにコロナによって、テレワークが可能な知識労働者と、現場の労働者という新たな二極化が生まれ、知識労働者においては高コストの都市を脱出する動きも出てきた。

ただ、こうした危険で過密な都市への反発は歴史上目新しいものではない、とジェームズは指摘する。ボッカチオにみられるように、疫病を避けて都市を脱出することは過去にもあり、フローレンスでは疫病によって長期的な変化と階級対立が悪化した。そうした都市の衰退の最も顕著な例は、その苦境がトーマス・マンの「ベニスに死す」で描かれたベネチアで、16世紀の後半に繁栄を極めた後、交易路の変化や新興都市との競争や疫病によって長期衰退の道を辿った。だが、周辺の小さな町に有名な産品の生産を移し、周囲の地域と新たな政治的関係を築いたという点で、ベネチアはポストコロナ時代のメガシティの新たなモデルとなり得る、ともジェームズは指摘している。

ジェームズは論説を以下のように結んでいる。

Today, pre-existing political conflicts have hampered the overall response to the pandemic. By their very nature, global cities were particularly vulnerable to the virus, and when it struck, their leaders and national authorities began blaming one another. London Mayor Sadiq Khan has regularly attacked British Prime Minister Boris Johnson’s shambling lockdown strategy. New York City’s mayor is in a three-way struggle with the governor of New York and Trump, who himself has used US cities’ crisis to deflect attention from his own mismanagement. In Hong Kong’s case, the virus created cover for China to assert its authority over the territory with a sweeping new security law.
A revival of real democracy is often thought to be the best solution to the problems associated with technocratic globalization. But if democracy is to have any appeal, democratic governments will have to be more effective in addressing not just the virus but also deeper sources of malaise such as poverty and unaffordable housing. Without competent management, megacities are bound to share the same fate as the great cities of the past. London and New York could sink in their own way. But, this time, there would be no renaissance in the hinterland.
(拙訳)
今日、従前からの政治紛争が疫病への全体的な対応を妨げている。国際都市はその性格からしてウイルスに対して特に脆弱であり、実際にウイルスに襲われると、都市の指導者と政府当局はお互いを非難し始めた。ロンドン市長のサディク・カーンはボリス・ジョンソン英首相の腰の定まらないロックダウン政策をいつも攻撃している。ニューヨーク市長はニューヨーク州知事とトランプとの三方向の闘争を繰り広げているが、彼自身、自らの不始末から関心を逸らすために米国の都市の危機を利用した。香港の場合は、新たな広範囲の安全維持法によって中国が地域に権力を振るう名目をウイルスが提供した。
テクノクラートのグローバリゼーションに伴う問題については、真の民主主義の再生が最善の解決策だと考えられることが多い。しかし民主主義が少しでも人々に訴求するためには、民主政府は、ウイルスだけではなく、貧困や入手困難な住宅のようなより根源的な問題にももっと有効な形で取り組む必要がある。上手く運営できなければ、メガシティは過去の大都市と同じ運命を辿ることになる。ロンドンとニューヨークはそれぞれの形で沈むことになろう。しかし今回は後背地でのルネッサンスは無いだろう。