消費とCOVID-19による死のトレードオフ

というNBER論文をロバート・ホールらが上げている*1。原題は「Trading Off Consumption and COVID-19 Deaths」で、著者はいずれもスタンフォード大のRobert E. Hall、Charles I. Jones、Peter J. Klenow。
以下はその要旨。

This note develops a framework for thinking about the following question: What is the maximum amount of consumption that a utilitarian welfare function would be willing to trade off to avoid the deaths associated with the pandemic? The answer depends crucially on the mortality rate associated with the coronavirus. If the mortality rate averages 0.81%, taken from the Imperial College London study, our answer is 41% of one year's consumption. If the mortality rate instead averages 0.44% across age groups, our answer is 28%.
(拙訳)
本稿は以下の疑問について考える枠組みを構築する:功利主義的厚生関数がパンデミックによる死を防ぐために進んで犠牲にする最大の消費額は幾らだろうか? その答えはコロナウイルスによる致死率に決定的に依拠している。もし致死率平均がインペリアルカレッジロンドンの研究が示す0.81%ならば、我々の回答は1年の消費の41%である。もし致死率の年齢層平均が0.44%ならば、我々の回答は28%である。


本文では、単純な計算式として以下を示している。
 α ≈ δ・v・LE
ここでαは犠牲にする1年の消費額の割合、δは致死率、vは1年の消費額で測った1年の人生の価値、LEは罹患者の平均余命である。LEはインペリアルカレッジロンドンの研究に基づいて14.5年として、本文の表1の前半ではδとvの各値についてαの以下の計算結果を示している。

δ v=5 v=6 v=7
0.81% 58.7 70.5 82.2
0.44% 32.0 38.4 44.8


ただ、この計算式は効用関数のテーラー展開での線形化から導かれており、消費をより多く削減する時のより大きな苦痛が考慮されていない、と著者たちは言う。そこで彼らは、γ=2としたCRRA効用関数からきちんと計算した以下の結果を表1の後半で示している。

δ v=5 v=6 v=7
0.81% 37.0 41.3 45.1
0.44% 24.2 27.7 30.9

この計算では、消費の削減額は線形の計算式よりも小さくなる。

*1:[2020/8/17追記]ここで紹介した論文のupdate版。