事後に対象者を絞る社会保険

パンデミック対策としてマンキューがブログで提案している
単純で素早くパンデミック対策の給付を行うためには全国民に配るのが良い、と言う経済学者もいるが、そうした気前の良い給付は本当に困っている人に対象を絞っていないので高くつく、と懸念する経済学者もいる。かといって本当に困っている人に対象を絞った給付は対象者の特定に時間が掛かり、かつ、漏れが生じる恐れもある。
そこでマンキューが提案するのが、事前に対象者を絞るのではなく事後に対象者を絞るやり方である。
具体的には、以下の給付と所得税付加税の組み合わせを提案している:

  • 今後Nヶ月、全員に毎月Xドルを給付する。
  • 2020年に、2021年4月(もしくは数年後)を納税期限とする所得税付加税を課す。額はN*X*(Y2020/Y2019)とする。ここでY2020は各人の2020年の所得、Y2019は2019年の所得である。ただし、この所得税付加税はN*Xを上限とする。

こうすれば、今年の所得がゼロになる人は社会保険給付を全額保持し、所得税付加税を払うことはない。今年の所得が前年から半減する人は社会保険給付の半額を保持し、所得税付加税で半額還付する。今年の所得が前年と変わらないか増える人は全額を還付し、結局、短期の借り入れを行ったのと同じことになる。
なお、このプランでは、Y2020がY2019より低い場合、2020年の所得に1ドル当たりN*X/Y2019の追加的な限界税率が掛かることになる。サプライサイダーの強硬派はそのことに目を剥くかもしれないが、今は税の歪み効果に目くじらを立てる時ではなく、給付を優先すべき、とマンキューは言う。パンデミック期に外に出て働くことの外部性を考えれば、限界税率の上昇はむしろ効率的という議論が成り立つかも、と彼は指摘する。
具体的な数字としてマンキューは、説明のための数字であってそれを勧めているわけではないと断りつつ、X=2000ドル、N=6ヶ月を挙げている。そうすると各人に1万2000ドルを給付することになるが、米国の成人人口が3億人なので、費用総計は3.6兆ドルとなる。これは大きな額ではあるが、大部分の人にとっては短期借入金となるので、見た目ほど恐ろしい数字ではない、とマンキューは言う。労働力人口の25%が半年失業する、という非常に悪いシナリオでも、純財政費用は2400億ドルとGDPの1.2%にとどまる、とマンキューは指摘している*1

*1:収入が半減する4000万人の受給額は1人当たり6000ドル、という計算。失業した人が平均的な年収である4万ドルを得ていたとすると、この6000ドルは失われた収入の30%を埋めることになり、より低い年収の人にとってはその比率は高くなる。また、それが短期借入金となる人にとっても打撃を和らげるクッションになる、とマンキューは指摘する。