という点についてブルッキングス研究所のGary Burtlessが概ね以下のようなことを述べている(RealClearMarketsサイトの元記事;H/T マンキュー)。
- IRSデータと国民所得統計を基にしたピケティ=サエズのデータは、上位1%の「現金市場所得」(=課税賃金、自営業所得、利子、配当、および政府給付金を除くその他の現金所得)の比率が1920年代末のピークに近いところまで高まったことを示している。
- センサス局の所得分布統計は、家計の課税前現金所得(=現金市場所得に政府給付金を加えたもの)を基にしているが、1979年から2012年に掛けて中位層の所得があまり伸びず、5分位の最下層が僅かに減少したことを示している。
- この統計はIRSデータを米国民全体に拡張する形で作成されている(所得税申告をしない家計はそれなりの割合に上り、しかもその割合は年によって変動するが、センサス局の年間所得調査ではほぼすべての家計が網羅されている)。
- IRSデータは米国の所得統計として重要な位置を占めている。しかしIRSデータにもセンサスデータにも、税の支払いや非現金所得が含まれていない。ピケティ=サエズのデータでは、現物移転のみならず現金移転も含まれていない。そのため、総所得における比率が高まっている要素が除外されていることになる。また、両統計においては、家計の税負担に関する税政策の変更も反映されていない。
- CBOはそうした欠点の是正を試みた。CBOは同時に、家計の人数の違いに関する調整も行った(同じ家計所得でも人数が減れば生活により余裕が生まれると考えられる)。さらに、社会保険負担金、個人や法人の所得税、物品税を通じて支払うと期待される連邦税についても調整を行った(ただし州や地方の税については調整せず)。
- CBOのデータも完璧には程遠いが、米国家計が(医療を含む)消費に回せる可処分所得を把握するという点では、IRSデータやセンサスのデータより遥かに良い。それによると、1970年代末以降、5分位の最下層の実質純所得はほぼ5割増しとなり、中位層は36%増となった。課税後所得が3倍になった上位1%には遠く及ばないとは言え、家計純所得はかなり改善している。
- この包括的な純所得の定義で過去に遡るのは難しいが、その定義によれば現在の格差の方が1920年代より遥かに低いのは明らかだろう。1929年には政府の家計への移転支出は米国の個人所得の1%未満だった。50年後の1979年には、その比率は11%となり、2012年には17%となっている。
- 1920年代末まで統計が遡れるのはピケティ=サエズだけだが、その統計では政府による所得移転が除かれている。しかし移転所得は明らかに格差を縮小させる要因であり、課税前所得をほぼすべて市場から得る高所得者層と対照的に、低中位所得者層にとって重要な所得の源泉となっている。CBOの2010年所得の統計では、市場所得で5分位に分けた場合、最下位層は市場所得の3倍近い政府からの移転所得を受け取っていることが示されている。中位層では市場所得と移転所得の比は5:1だが、上位1%ではその比率は150:1となる。
- 確かに市場所得の格差は、1970年代以降に縮小傾向が反転し、今は1928年と同水準にまで高まっているかもしれないが、所得移転や累進課税の影響は当時と比較にならないほど重要性を増している。そうした影響を無視することは、格差縮小に向けて米国が払ってきた極めて犠牲の大きい努力を無視することになる。