米国の格差に関する測定と理解の改善

2週間前にソローのEqiutable Growthインタビューを紹介したことがあったが、その10日ほど前にソローは表題のエッセイ(原題は「Improving the measurement and understanding of economic inequality in the United States」)を同サイトに寄せている
そこでソローは、経済統計の改善について概ね以下のような五つの提言を行っている。

  • 国民所得・生産勘定(NIPA)やGDPを変更するにしても、旧統計が簡単に復元できるようにすべし
    • NIPAを拡張・改善して、全般的な経済厚生およびその向上の指標としてより良いものにしよう、ということには長らく関心が払われてきた*1
    • 同勘定やその代表指標であるGDPは、そもそも厚生ではなく経済活動を測るために開発された。
      • ただしその目的においても改善の余地がある。最も一般的に提案されている拡張は、環境の悪化や改善などの資源の減耗を取り込むこと。それに自分も賛成。
    • ただ、敢えて後ろ向きの話をするならば、最終的にNIPAやGDPを変更するにしても、旧統計の各要素の大部分が常に簡単に抽出できるようにした方が良い。
      • 基礎統計の収集の関係で、新統計を長期にわたって遡及することは不可能だろう。
      • 1949年まで遡る四半期の一貫したデータがあることは、マクロ経済の振る舞いや政策を理解するための測定に留まらない研究をしようとするものにとっては、貴重なこと*2。そのデータがあっても研究は難題だが、無ければ絶望的となる。
  • 減価償却の会計を改善すべし
    • 国民経済統計の開始当初から、総投資と総生産に焦点を当てることは常に誤差の元になる、ということは理解されていた。
      • 固定資本の減耗の計上が大きくなったただけでGDPの年次変化が大きくなったとしても、何も良くなったわけではないことは明らか。
    • 減耗を控除して純生産、並びにそれに対応する純所得を求めることは、生産経済活動のより優れた指標をもたらすことになる。
    • 総投資やGDPの重視は、企業会計減価償却の指標が不正確であるだけでなく奇妙な方向に偏っていることから来ている*3
      • 税制上のインセンティブや決算のお化粧によって減価償却の会計の実務は大きく歪められるので、ランダムですらない誤差を取り入れるよりは、償却を考慮しない方がまだまし、と考えられた。
    • 状況は今も昔と変わっていないとのことなので、償却(や減損)の会計にもっと力を注ぐべき。
      • 将来、純生産や純所得を重視できるようになれば、NIPAは、厚生やその時間的変化を測定する基礎統計に一歩近づくだろう。
  • 所得分布に関する統計を改善し、定期的に公表すべし
    • これまでの話は既存の統計の組み替えに留まるが、経済の標準的な統計の構図をもっと有用かつ重要な形で拡張するのは、分布情報の定期的な公表である。
    • お馴染みのジニ統計は明らかにすることよりも隠すことの方が多いので、同統計よりも大きく先を行く改善を行ってほしい。
    • まずは、個人所得分布を十分位で計算してもらいたい。現在の五分位は無いより遥かにましだが、粗すぎるので。
    • また、税・移転前と税・移転後の両方の市場所得についてそうした分布を計算すれば、多くの情報が得られるだろう。
    • 定期的な出版物で、一般の人々にローレンツ曲線を啓蒙すべし。格差の変化を図で把握するにはおそらくそれが最善の方法なので。
    • 公表を四半期毎にするか年毎するかにはトレードオフがある。1年は変化を把握する間としては長いものの、個人や個人に集合にとっては四半期毎の変化はほぼ無意味だろう。どの頻度が良いかを決めるには経験を積むしかない。
  • 公的および民間の資産と負債の会計を真剣に行うべし
    • 米国のインフラが老朽化している、というのはお馴染みの苦情だが、公的資産を定期的に計測することによって、修理・建て替えについて合理的な意思決定ができるだろう。
    • ロボット化が進んで人間が働かない時代が来れば、そうしたロボットを国が間接的に保有し、賃金や給与の代わりとなる所得を人々に提供する時代が来るかもしれない。公的資産やその生産性の会計をきちんと作成する伝統を確立しておくことは、その時に有用となる。
    • 民間資産の分布をより完全な形で捕捉することが、経済厚生の理解に役立つことは論を俟たない。税データを利用してそうした統計を作成した学者たちによって事態は大きく進展したが、それでもまだ改善の余地は多々ある。
  • 縦断的データの収集に注力すべし
    • 特に雇用状態、収入、所得のデータ。
    • 既にそうしたサーベイデータは存在し、研究に利用されているが、より大規模で体系的に設計されたデータが欲しい。生涯所得を決めるランダム過程の理解のために、とりわけ状態の変化の頻度を把握するようにしてほしい。
      • 個人的な話をすれば、博士論文を書く際には、1930年代後半の3〜4年について社会保障庁が作成した遷移マトリックスが大いに役に立った。今はカバレッジがもっと広いので、年齢などの個人の特性別に集計できるのではないか。

最後にソローは、他にも社会や経済の厚生の重要な指標は数々提案されているが(健康状態、教育・訓練へのアクセス、犯罪の脅威、保障についての主観的な感覚など)、ここでは自分が比較優位を持つ指標に話を絞った、と断っている。

*1:cf. ここ

*2:cf. ここで紹介したローマーの研究。

*3:cf. ここで引用したサミュエルソンの言葉。