ソローが見る米経済の問題

ロバート・ソローがEquitable Growthのインタビューで現下の米経済で最も重要な3つの問題を問われて、以下を挙げている

  1. 数字上の格差
    • 所得や富の規模や分布における格差。
    • 課税の累進性が低下しているので、それを高めることが課題。
  2. 広義の概念上の格差
    • 大統領選により、多くの人の疎外感が明らかになった。労働者の企業に対する帰属意識が希薄になっている。
    • かつてクラーク・カーは、団体交渉の主たる成果は賃金ではなく、彼のいわゆる規則網である、とした。それは、誰が誰に対して何ができて何ができないかを決めた行動規範を指す。労働者の声を経営に反映させる仕組みの改善と拡大が必要。かつては労働組合がその役割を担っていたが、労働の性質が変わったため、組合運動の復活は望むべくもない。
    • 労働の性質が変化したことの象徴的な例がオンライン労働者。彼らは日々変化する雇用者と接触を持たず、その雇用者の下で働く他の人々とも接触を持たない。そうした人々の規則網をどうするか、彼らの声を経営にどう反映させるか、あるいは単一の雇用者の下で長く働かない彼らの退職後のケアをどうするか、といった問題は、十分な注目を浴びていない格差問題の一つである。これは定量的な格差ではないが、上司と部下の関係がどんどん上司に有利になっており、それによって人々は不幸になっている。
    • これについては、他国の事例を参照しつつ適切な人が解決策を探るのが望ましいが、それを上手く促進する方法が分からない。社会学者や社会心理学者に頼るのが良いのかもしれないが、人々の心理状態の改善だけでなく自己利益の追求の改善が目的となるので、やはり経済学も重要。
    • 企業は組合の組織化に過剰反応している。数年前に自動車労働組合がケンタッキーのフォルクスワーゲンの工場で組織化を提案した時、フォルクスワーゲンは、どうぞ、と言ったが、それに対し全米の企業は息を呑んだものだ。また、ソロー自身が役員を務める営利組織でも、組合の可能性が出てきた時に、経営陣は会社のコントロールを失うのではないかとパニックに陥った。現在は組合の組織化を防ぐ様々な規制があるが、政策担当者はそれを緩和すべき。
  3. 温暖化問題
    • 上記の2つの問題がソローにとって最も気掛かりな問題だが、3つ目を挙げるならば、特に目新しい話ではないが、温暖化をあまりにも無視しているという問題。今や逆方向に進んでいるので、話題にするのも馬鹿らしくなっている。環境保護局が科学諮問委員会の科学者を規制対象業界の代表者にすげ替えるなど、政治面だけでなく政策面でも問題が出ている。

ソローはさらに、経済学者が現在日々論争しているテーマとして、米国が完全雇用に達したか否か、そしてそれはインフレをもたらすか、という問題を挙げている。ソローによれば、90年代に完全雇用に近付いた時にインフレが起きなかったのは、医療費の抑制といった偶然が働いたためとの由。