世界貿易の興亡、1870−1939

最近の世界貿易の低迷について論じたブログエントリクルーグマンが、2002年の表題の論文(原題は「The Rise and Fall of World Trade, 1870−1939」)にリンクしている。論文の著者はAntoni Estevadeordal(米州開発銀行)、Brian Frantz(米国際開発庁)、Alan M. Taylor(UCデービス)(肩書はいずれも論文記載当時)。
以下はその要旨。

The ratio of world trade to output was a mere 2% in 1800, but it then rose to 10% in 1870 to 17% in 1900 and 21% in 1913. It then fell back to 14% in 1929 and only 9% in 1938. The period 1870–1913 thus marks the birth of the first great era of trade globalization, the period 1914–39 its death. What caused the trade boom and bust? The textbook interpretations offer a variety of narratives, but few precise answers. We use an augmented gravity model of trade to examine the gold standard, tariffs, and transport costs as determinants of trade. In the nineteenth century the gold standard was much more important than tariff policy, and just as important as transport costs as a trade-creating force. In the 1920s, the slowdown in trade was driven by a rise in transport costs, though trade barriers other than tariffs might have been important. In the 1930s, the final collapse of the gold standard, persistently high transport costs, and the expansion of other barriers drove trade volumes even lower.
(拙訳)
世界貿易の生産に対する比率は1800年には2%に過ぎなかったが、その後、1870年には10%、1900年には17%、1913年には21%まで上昇した。それから1929年には14%まで低下し、1938年にはわずか9%となった。従って、1870-1913年の期間は貿易が初めて大きくグローバル化した時期であり、1914-39年の期間はその終焉であったことになる。この貿易の盛衰をもたらしたのは何だったのであろうか? 教科書の解釈では様々な物語が語られているが、正確な回答はほとんど無い。我々は、拡張された貿易の重力モデルを用い、貿易の決定要因としての金本位制、関税、ならびに輸送コストを調べた。19世紀には、貿易の駆動要因として金本位制は関税政策よりもかなり重要で、輸送コストと同じくらい重要であった。1920年代の貿易の鈍化は、輸送コストの上昇によってもたらされた。ただし、関税以外の貿易障壁も重要な役割を果たしたとみられる。1930年代には、金本位制の最終的な崩壊、高止まりした輸送コスト、および他の障壁の拡大が貿易量をさらに押し下げた。


輸送技術の発展が続いても、その速度が経済全体よりも遅ければ、実質輸送コストは上昇する、と論文は正しくも指摘している、とクルーグマンは言う。そして、最近の貿易の停滞も、輸送技術の大きな進歩(コンテナ化、バリューチェーンの細分化を可能にしたコミュニケーション技術の発達)という一回きりの要因が剥落したためではないか、と論じている(技術進歩以外の一回きりの要因として、発展途上国の輸入代替から輸出志向へのシフトも挙げている)。これは悪いことではなく、一つの技術の時代の終わりに過ぎない、と彼は述べている。