一方、日本では…

家計消費が低下し続けている、というブログエントリをBrad Setserが書いている(原題は「Meanwhile, in Japan, Household Consumption Continues to Fall」、H/T Economist's View)。
(ここでmeanwhileから始まっているのは、ブレグジットやイタリアの銀行や人民元の行方に世間の耳目が集まっている傾向を受けている。)
Setserはまず具体的なデータとして、5月の家計調査がネガティブサプライズとなり、14年の財政再建開始以降の実質消費の低下傾向が明確になっている点を指摘している。
その上で、背景を以下のように分析している。

I consequently do not think there is any real mystery as to why Abenomincs is floundering a bit.
It is not primarily a result of the difficulties the Bank of Japan (BoJ) faces keeping the yen weak without breaking the G-7 currency peace through direct intervention. A weak yen on its own did not prove to be a boon to internal demand in 2015.
Nor is it in any simple way a function of a failure to deliver on structural reforms: I agree with Larry Summer’s recent comment that many “OECD standard” reforms have an ambiguous impact when deflation is more of a concern than inflation.
Rather, Japan’s troubles stem from a series of policy choices that had a fairly predictable negative impact on household demand.
(拙訳)
ということで、私はアベノミクスが些かもたついている理由が本当に謎だとは思わない。
この結果は、日本銀行(日銀)が直接介入によってG7の通貨の平和を乱すことなしに円安を維持できないことが主因ではない。円安それ自体は、2015年の内需にとって恩恵とはならなかった。
また、構造改革ができなかったせい、という単純な話でも決してない。私は、多くの「OECDの標準的な」改革の影響は、インフレよりもデフレが懸念される場合には曖昧である、というラリー・サマーズの最近のコメント*1に同意する。
日本の問題は、家計の需要に負の影響を与えることが十分に予測できた政策の選択を続けたことが原因なのである。

問題をもたらした政策としてSetserは以下を挙げている。

  • 構造改革の一つの柱として税を企業から家計にシフトした(=法人減税と消費増税を行った)結果、既に高い貯蓄を行っていた企業部門が楽になり、貯蓄率の低い家計部門の税負担が高まった。
  • 円安も一次的には企業利益を高める一方で、家計所得を低めた。
    • 名目賃金が伸びない中で食料やエネルギーの輸入品価格が上昇し、家計の実質所得が低下した。
    • 輸出比率の高い日本企業の利益は伸びたが、それが家計所得の上昇につながるのは、投資の増加と賃金の上昇を通じる場合のみである。しかし2012-2015年の円安による利益は大部分が貯蓄に回ってしまったようで、賃金の上昇にはあまり結び付かなかった(5月の名目賃金は前年比で低下した)。
  • 2014年と2015年の財政再建の負担は、家計、特に低所得の家計にのしかかった。内需が低下し続ける中では投資も伸びない。

エントリの最後でSetserは、家計消費が日本の政策課題の中心として認識されつつある兆候として、大和総研IMFのレポートを挙げている。