デロングが現在の経済の状況について10の質問を自問自答している(自ブログエントリ。H/T Economist's View)。以下はその概要。
- 景気後退の可能性?
- 小さいが、極めて小さいというわけではない。
- 長期停滞?
- 金利の均衡水準?
- 市場が示す水準は低い。残る問題は、その原因が、利益をもたらす投資機会の不足か、それとも世界的なリスク負担能力の不足か、ということ。いずれの理論にも支持する証拠がある。
- FRBは12月に金利を引き上げるべきだったか?
- 否。プラス面が無くマイナス面が見えていたのだから、事前的にも間違いだった。マイナス面が現実のものとなった事後的には中程度の間違い。
- インフレ目標の引き上げ?
- 1990年代半ば時点で2008-2016年のような状況が生じる可能性が予見できた場合、年率2.5%のCPIインフレ目標を合理的と考える人はいない。4%が合理的だと考えたはず。どの時点から見ても賢明でない政策にこだわる理由は存在しない。愚かであることについて信認を得たいとは思わないはず。
- FRBのパフォーマンス?
- トランプ?
- 中国?
- 習近平の望む「民主的中央集権制度」への回帰が、繁栄する現代の経済と両立するものなのかどうかは不明。19〜20世紀の欧州の経験するからすると答えは否だが、欧州が良い手本とは限らない。中所得の罠についても、中南米特有の現象かもしれない。
- 中国の長い歴史は、世界人口の5分の1を擁する国が世界で最も繁栄し最も平和的な地域として主導的な地位に立つのが自然、ということを示している。ただ、200年のスパンで考えればそうかもしれないが、50年のスパンでは懸念が大いにある。
- 中国ショックの米国への影響の大きさは中程度に留まると考えられ、FRBとFRB以外の政策当局に総需要を安定させる意思と能力があれば懸念には及ばない。しかし、FRBには意思があっても能力が無いかもしれない。そしてFRB以外の政策当局には能力があっても意思が無い…。
- ブレグジット?
- 新興国市場のリスク?
- 教科書的なモデルでは、新興国通貨の価値が市場に従っているならば、米国の金融引き締めは新興国市場にとって拡張的となる。それは間違っているように思われるが、間違いの理由が明らかでない。新興国は海外からインフレファイターとしての信認を得るために通貨を完全なフロート制にするわけにいかないのが理由、という人もあれば、国際的な資本の流出入には資金調達だけでなくリスク負担や起業家精神という要因もある、という人もある。従って、モデルから導かれる理由はかなり曖昧模糊であるものの、現在のFRBの引き締めサイクルは大いに懸念すべき。
- 経済成長が期待外れに終わるのは、いつものこと。西欧の栄えある30年の収斂、アジアの虎、日本の明治・昭和、現代の中国、ウィルヘルム時代のドイツに注目しがちだが、それらは例外。1850年頃にカール・マルクスとジョン・スチュアート・ミルは、それぞれ異なる理由(ミル=世界貿易・親市場的な英国の制度の移植・ミルらが仕切るインド総督府の優れた政治、マルクス=共産主義革命)で、今後50年以内にインドの産業構造と生産性水準が英国レベルに収斂することを予測したが、両人とも間違っていた。今日、情報や知識が安価に入手できるようになったにも関わらず、依然として10億人が産業革命時代以前の人と変わらぬ暮らしを送っている。