QE1策定に関わった元FRB理事のQE観

昨日紹介したQEを巡るAEIセミナーでは、危機時にFRB理事を務めていたKevin Warshも登壇している。Warshは、現時点の彼のQEの評価として以下の5点を挙げている。

  1. QE1は成功だったが、単独で成功したわけではなく、FRBの他の政策との組み合わせの中で効果を発揮した。それも直接的に効果を発揮したというよりは、求められていた流動性を市場に供給して民間の資本をクラウドインすることによって成功した。
  2. QE2以降は雇用と生産にプラスの影響を与えたかもしれないが、その影響は小数点以下の微々たるものだった。
  3. 基調講演(対話)でバーナンキQE金利とほぼ同じ経路で働くと述べたが、それは疑問。QEの金融資産への影響は、実物資産や実体経済への影響よりも遥かに大きかった。
  4. 家計資産の実質収益は家計所得の実質収益よりも遥かに大きく、QEは格差拡大に一役買った。
  5. インフレは、QE2以降の成功の尺度には使えない。主流派のインフレ理論は、目標と実際のインフレの差をQEによって微調整するほどの頑健さを持たない。

また、QEの熱烈な支持者とあからさまな批判者(Warsh自身はどちらでもないとしている)が意見を異にする点を明らかにする質問として、以下の4つを挙げている。

  1. 価格シグナルはどの程度重要か?
    • Warsh自身は価格シグナルは重要であると考えており、それなしに中銀がどのように金融政策を実施すべきかわからない、と考えている。価格シグナルを黙らせることにそれだけの価値があるかどうかは熟考すべきで、危機の最も深刻な時にはその価値があるとWarshは判断した。平穏と繁栄をそれなりに取り戻した状況で、世界のどこにおいても最も重要なリスク資産である10年物国債の価格シグナルを隠すことは、より危うい政策となる。
    • ただ、価格シグナルがすべて、という考え方に与せず、労働統計局や商務省からのデータを基に判断すればよい、と思うならば、それも一つの考え方。
  2. 政策当局者はどの程度上手く個人の意思決定を理解し織り込むことができるか?
    • Warshはそれほど上手くできないと考えている。
  3. FRBが目標を達成する最善の方法は何か?
    • FRBが優れたデータで的確に経済情勢を予測し、政策効果にも自信があるというのならば、GDPや雇用やインフレを微調整できるだろう。しかしWarshは、FRBの知識には限界があり、能力の大半を景気循環や金融循環がもたらす擾乱への対応に費やすことになると考えている。
  4. FRBの地位と責任は永続的か?
    • 国史において現在は中銀の実験の3番目。最初の2回は上手く行かなかった。


主流派経済学者界隈では必ずしも評判の良くないWarshではあるが、以上の指摘には一考の余地があるように思われる。