中銀のバランスシートが財政面の支援を必要とする時

NY連銀のMarco Del Negroとプリンストン大のクリストファー・シムズが、「When Does a Central Bank’s Balance Sheet Require Fiscal Support?」というNY連銀スタッフレポートを書いている(H/T Economist's View経由のNY連銀ブログ)。
以下はその要旨。

Using a simple general equilibrium model, we argue that it would be appropriate for a central bank with a large balance sheet composed of long-duration nominal assets to have access to, and be willing to ask for, support for its balance sheet by the fiscal authority. Otherwise, its ability to control inflation may be at risk. This need for balance sheet support—a within-government transaction—is distinct from the need for fiscal backing of inflation policy that arises even in models where the central bank’s balance sheet is merged with that of the rest of the government.
(拙訳)
簡単な一般均衡モデルを用い、長期のデュレーションの名目資産からなる巨大なバランスシートを持つ中央銀行が、財政当局によるバランスシートへの支援を得られること、ならびに進んでそれを求めることが適切である、と我々は論じる。さもないと、そのインフレをコントロールする能力は危機に曝される。このように政府内の取引処理によってバランスシートの支援が必要になることは、インフレ政策への財政面からの支援とは話が別である。それは、中銀のバランスシートが他の政府部門と統合されたモデルにおいてさえそうである。


NY連銀ブログでは論文のモデルについて概ね以下のような説明がなされている。

  • シニョリッジがインフレと金利の経路に依存するという事実を明示的にモデル化。この内生性が、財政の支援が無い場合に複数均衡の可能性をもたらすことが示される。
  • 以下の2つのことを国債の投資家が知っているものとする:
    • 中央銀行の頼れるリソースがシニョリッジしかない。
    • 高インフレと高金利が近い将来に起きた場合には、中央銀行の長期債からなる資産の価値が、短期の有利子負債(準備預金)のそれを下回る。
  • その場合、高インフレ予想が実際に中銀がシニョリッジに頼ることを余儀なくさせると考え、周囲の国債の投資家にもそれを納得させたならば、それは自己実現的に発生する。
  • ただし、米国ではそうした自己実現的な予測は発生しない。というのは
    • 米国の中銀のシニョリッジの期待現在価値は、GDPのおよそ2倍と計算される。極端な高金利の予想が生じない限り、それより多いシニョリッジが必要になる事態は考えにくい。
    • 如何なる事態でも財政の支援が生じないと前提することは正しくないと思われる。高インフレの予想に直面したならば、財務省は進んで中銀を支援するだろう。その支援にはコストは掛からず、ハイパーインフレの芽を摘むには財務省の支援の意思だけで十分。
  • 以上のことが意味するのは、中銀がQEをすべきではないということでは決して無い。QEが成功裏に金融の状況を改善し、経済回復を助けたことが多くの研究によって示されている。ここでの我々の主張は、中銀にとって、財政当局によるバランスシートへの支援を得られること、ならびに進んでそれを求めることが常に適切である、ということである。換言すれば、中銀の独立性は、中銀が財政当局の行動に関係無くインフレをコントロールできることを意味するわけではない。歴史が示す通り、そうであった試しは無い*1

*1:ここでブログは、サージェントの「四大インフレーションの終焉」論文と、シムズの「Paper Money」(2013)という論文にリンクしている。