金融は社会に裨益するのか?

というNBER論文をルイジ・ジンガレスが書いている(原題は「Does Finance Benefit Society?」)。
以下はその要旨。

Academics’ view of the benefits of finance vastly exceeds societal perception. This dissonance is at least partly explained by an under-appreciation by academia of how, without proper rules, finance can easily degenerate into a rent-seeking activity. I outline what finance academics can do, from a research point of view and from an educational point of view, to promote good finance and minimize the bad.
(拙訳)
学界が認識するところの金融の便益は、社会の認識するところを大きく超えている。この不一致の少なくとも部分的な理由は、適切なルール無しでは金融が如何に容易にレントシーキング活動に堕してしまうかということを、学界が十分に認識していないことにある。ここでは、研究および教育の観点から、良き金融を推進し、悪しき金融を最小化するために金融学界が何をできるかを概説する。

これは、昨年米国ファイナンス学会の会長を務めたジンガレスによる今年1月の会長講演で、こちらでungated版が読める。また、ジンガレスはブルームバーグ論説で講演の内容を概説しているが、そこで彼は、以下の3点を学界がやるべきこととして挙げている。

  1. 金融界の問題を明らかにする実証研究の展開
    • こうした「法廷」ファイナンスの素晴らしい実例としては、NASDAQディーラーの共謀を明らかにした研究や、ストックオプションのペテンを明らかにした研究がある。
    • 企業や規制当局からのデータの入手が最大の課題となるが、結果を検閲しようとする彼らの提供条件に研究者は屈してはならない。また規制当局は学者を敵ではなく味方と考えるべき。
  2. ロビー活動の圧力のために理論研究の厳密さを犠牲にしてはならない
    • 金融業界にとって不都合な現実を無視するモデルを経済学者が構築するケースが多過ぎる。そうした慣行は政策の誤りにつながる。
    • 良い理論は世界を違った見方で見せるものであるべきで、特定の利益のために見方を歪めるものであってはならない。
  3. 教育の責任
    • 最近行われた実験によると、自らの職業を意識した場合、銀行員はより不誠実に振る舞うという*1ビジネススクールでは知らず知らずのうちに生徒を不誠実になるように教育しているのだろうか?
    • 教授たちはMBAコースで社会的規範や企業の評判について教えるべき。
    • 市場機能は信頼に依拠している。信頼の重要性を認識しない生徒を送り出せば、我々皆が支持している制度を自分たちの手で掘り崩すことになりかねない。