ここで紹介したクルーガーらの論文にマイク・コンツァルがコメントしている。以下はその概要。
- この論文を基に、現下の経済状況を把握する指標として短期の失業率にだけ注目すべし、と主張する者もいるが、それは必ずしも当たっていない。実際にはこの話は2009-2012年の期間の問題だということに注意する必要がある。当時は失業率が非常に高い割にインフレ率が安定していることが問題だった。一方、2014年の問題は、失業率が高い割に過去数年の関係に鑑みてインフレ率が低いことが問題。両者は別の問題であり、別の説明を必要とする。
- 論文から引用した上図を見ると、確かに右側の短期失業率とインフレ率の関係の方が左側の全体失業率とインフレ率の関係よりも緊密に見える。しかし、これには注意すべき点が3つある:
- 左図では、(コンツァルが書き加えた)緑線に囲まれている2009-2012年が外れ値となっている。著者たちはこの図のインフレ率を賃金インフレ率に置き換えたバージョンで短期失業率を説明変数にすると決定係数と予測力が上がるとしているが、単にこの期間を外すだけでも決定係数と予測率は上がる。
- 左図では2013年が回帰線上に乗っているが、右図では2013年は短期失業率から予測されるよりインフレ率が低い。2013年の経済学上の重要な話題の一つがインフレ率の急低下であったことに鑑みると、これは驚くべきことではない。
- 危機時に離職率は急低下した。短期失業率は、経済が思ったより良かったことを示しているのではなく、人々がとにかく職にしがみついていたことを反映しているのではないか。
- 2009-2011年にデフレに陥らなかった理由については非常に興味がある。FRBが関係していそう。
- こうした問題は過去に関する話であり、クルーガーらは「2009年以降」といった文言を論文の基本線に据えることにより、その点を意識している。ただ、読者の中にはそれを解さず、現在において短期失業率が重要と認識してしまう者もいるかもしれない。その認識は、低インフレ率、長期失業率の低下、6%半ばに定着しつつある失業率、という現状にそぐわない。2010年に起きていたことを把握するためのデータ調整法を用いて2014年のスラックが実際より低いなどと論ずるべきではない。