マクロ経済モデルに欠けている4つの要素

26日エントリで紹介したデロングやクルーグマンの論考や、21日エントリで紹介したミクロ的基礎付けを巡る論争をきっかけに、Antonio Fatásが主流派マクロ経済モデルに備えて欲しいと彼が考える4つの特性を挙げている

  1. 景気循環は対称的ではない
    • 多くのマクロ経済モデルは、変動が、その原因となる事象によって正負両方向の値を取り、平均がゼロであるとしている。それは経済ショックの描写を間違えているのみならず、安定化政策には大した効果が無いという認識につながる。
    • ミルトン・フリードマンは、変動が対称的であるという見方に代わるものとして、プラッキングモデル*1を打ち出した。そのモデルでの生産は、最大値もしくはそれ以下の値しか取り得ない。
    • 非対称的景気循環モデルに依拠するならば、潜在生産と自然失業率への見方は大きく変わる。2007年にOECDの大部分でGDPが潜在GDPを超えていたとか、南欧の自然失業率は実際の失業率に極めて近い、といった議論はしなくなるだろう。
       
  2. 多くの学界の研究では、大きくて稀な事象ではなく、小さくて頻繁に起こるショックが経済変動を引き起こす、というモデルを用いて結果が生み出されている
    • 一方でNBERの景気判定の方法論は景気後退の概念を強調するが、それは非対称性を意味する。
    • それにも関わらず小さくて頻繁に起こるショックのモデルが研究で使われるのは、その方がモデル化が楽なためだろう。
    • 景気拡大期における動学によって景気後退が引き起こされるとすると、モデル化は一層面倒になる。大抵のモデルは、危機前の内的な動学ではなく、予想されない事象を危機の原因としている。
       
  3. 価格の硬直性だけでは不十分
    • 価格の硬直性は確かに重要だが、調整が遅れることや景気循環が消滅しないことについては、他にも実体経済における摩擦要因があるはず。その計測やモデル化は簡単ではないだろうし、経済ごとに異なるかもしれないが、価格や賃金が最適水準に調整されれば自動的に完全雇用が回復される、と想像するのは難しい。
    • サマーズは最近のIMF講演でそうした摩擦要因に触れたが、あまり深入りしなかった。
       
  4. 景気循環の動学の説明に際して経済主体同士の協調問題は重要、という考え方は学界であまり注目されてこなかった
    • 経済政策論議では時折り現われるが(例:IMFのオリビエ・ブランシャールが欧州債務危機の説明で複数均衡に言及)、学界では本来受けるべき注目を浴びてこなかった。

このFatásの考察の第一項にクルーグマン反応し、そうした非対称性が起こる原因として以下の2つを挙げている。

  1. 企業の市場支配力により、経済は慢性的に雇用が不十分な状態に陥っている
    • 企業は価格を限界コストより高く設定し、現行価格で本来より多く売る。これは好況期には良いが、生産し過ぎたと考える時期には宜しくない。
  2. 賃金(とおそらくは価格)の下方硬直性
    • 双方向の硬直性ではなく、下方硬直性があるということは、まさに非対称性の存在。