金融政策の効果の非対称性

5年前に金融政策の効果の非対称性について簡単な考察(というほど大袈裟なものではないかもしれないが)をしたことがあったが、リッチモンド連銀のRegis Barnichon、Christian Matthes、Tim Sablikが、Economic Briefの最新号でそうした非対称性についての分析を行っている(H/T Economist's View)。そこでは、金融政策の引き締めと緩和で効果に非対称性が生じる理論的理由として、以下の3点を挙げている。

  1. 異なる金融環境下での貸し手と借り手の行動
    • FRB金利引き上げ時、銀行は単純に借り手に金利上昇を転嫁するわけではない。そうした転嫁もある程度は行うが、あまり金利を上げ過ぎると債務不履行の可能性が高まるため、リスクの高い消費者向けの融資の制限を行う。それによって生産の落ち込みが大きくなり、引き締め効果が増幅される。
    • 一方、緩和政策は別に消費者に何らかの制約を課すわけではなく、経済状況によって需要が落ち込んでいる場合に借り入れと支出を拡大する必然的な効果は持たない。
  2. 価格と賃金の下方硬直性
    • 値下げ調整というものがあまり行われないほか、企業も士気低下を恐れて賃金をあまり下げない。こうした価格と賃金の下方硬直性のため、企業は金融引き締め政策に応じて価格よりはむしろ生産を下げる。
    • 一方、価格と賃金は上方にはそれほど硬直的ではない。そのため、緩和政策は生産よりも価格の上昇を促す。
  3. 景気循環の影響
    • 消費者が経済状況に悲観的な景気後退期には、金利低下の借り入れと支出への刺激効果は限られる。
    • ただ、景気拡大期の消費者の楽観主義も金利引き締め効果を弱めるため、この説明は必ずしも説得的ではない。この説明が意味を持つためには、景気後退期の悲観主義が景気拡大期の楽観主義より強い必要があるが、そうした可能性はあるにしても現実的とは言い難い。

レポートの後半では、「Gaussian Mixture Approximation」という新たな手法を用いて従来よりも明確に金融政策の効果の非対称性を検出した、という結果を報告している。