マクロ経済学の4分類

ノアピニオン氏がブルームバーグ論説マクロ経済学を4つに分類したところ、デロングが、その分類は間違っている、と批判した(H/T Economist's View)。

以下はノアピニオン氏の4分類。

  1. 茶店マクロ
    • 多くの一般の議論で耳にするマクロ。しばしばハイエクミンスキー、ケインズといった死せる賢人の考えが中心となっている。正式なモデルは伴わないが、政治的イデオロギーが多く含まれていることが多い。
  2. 金融マクロ
    • 資産価格(主に債券価格)の先行きを予測するために、金利や失業率やインフレ率やその他の指標の動向を読もうとする民間のエコノミストコンサルタントのマクロ。単純な数学を使うことが多いが、先進的な予測モデルを使うこともある。個人的な当て推量が常にかなり入り込む。
  3. 学界マクロ
    • 教授たちが経済に関する簡易モデルを構築するマクロ。80年代以降、モデルはDSGEのみとなった。学者たちは、そうしたモデルは個々の消費者や企業の行動に基づき経済の深層構造を描写する、と大真面目に述べるが、そうしたモデルを一目見た学界の外の人は、何かの冗談かと思う。モデルにはあまりにも多くの非現実的な仮定が含まれているため、現実を捉える可能性はほとんどない。予測パフォーマンスも最低である。中核的な構成要素が明らかに破綻しているモデルもある。厳格な統計的検定はこうしたモデルを即座に棄却することが多いが、それはこれらのモデルにはファンタジーが多く含まれているのが常だからである。
  4. FRBマクロ
    • FRBは、データとモデルを共に活用する、折衷主義的な手法を用いる。モデルはDSGE型であることもあれば、そうでないこともある。FRBマクロは、失業率やインフレ率といったお馴染みの限られた指標だけでなく、数多くの様々なソースからデータを取得し、情報を多様な方法で分析している。また、政策決定に責任があるため、必然的に判断も数多く盛り込まれる。


以下はそれを修正したデロングの4分類。

  1. ペテンマクロ
  2. 的外れの(学界DSGE)マクロ
  3. 有用な(FRBテクノクラート、金融予測の)マクロ
  4. 茶店マクロ

このうちペテンマクロは、ノアピニオン氏の金融マクロのうち、富裕層を脅して手数料を貪ったりいい加減な商品を売りつけるための類縁詐欺の部分、とデロングは定義している。


学界についてノアピニオン氏は、「brightest minds locked in the ivory tower, playing with their toys(最も頭脳明晰な人々が学界の象牙の塔に籠り、自分の玩具で遊んでいる)」と描写したが、デロングはその認識を以下のように批判した。

I think this is wrong. Academics are not locked in the ivory tower. Rather, some academics--unfortunately, many academics--lock themselves in their own ivory tower. And I question Noah's description of the people as "brightest". If you insist on trying to understand business cycles by requiring a single consumption Euler equation (rather than, say, risk-averse rich 70-somethings with short horizons; myopic middle-class 40-somethings, and the liquidity constrained); if you insist on trying to understand business cycles by requiring that firms engage in Calvo pricing; If you insist on trying to understand business cycles by requiring rational expectations (rather than anchored, adaptive, extrapolative, perfect-foresight, and Panglossian)--well, then you really aren't very bright at all, are you?
(拙訳)
その描写は間違っていると私は思う。学者は、学界という象牙の塔に籠っているわけではない。そうではなく、ある学者――残念ながら、多くの学者――は自分自身の象牙の塔に籠っているのである。また、そうした人々をノアが「最も頭脳明晰」と描写したことにも疑問を抱く。景気循環を(例えば、リスク回避的で先が短い70代の富裕層と、近視眼的な40代の中間層と、流動性制約を受けている層、といった複数の層によってではなく)一本のオイラー方程式で理解することにこだわるのであれば、あるいは、景気循環を企業のカルボプライシングで理解することにこだわるのであれば、あるいは、景気循環を(固定的、適応的、外挿的、完全予見的、楽観的期待ではなく)合理的期待で理解することにこだわるのであれば、それは頭脳明晰とはまるで言えないのではないか?


一方で学界の中で有用なマクロもあり、それは有用な金融マクロとFRBマクロとも相互に交流している、とデロングは指摘する。その3つのモデルや手法が完全なコンセンサスに至ることはないにしても、ほぼ近いところまで急速に収束するので、それらは事実上一つのものと考えて良い、とデロングは言う。


また喫茶店マクロについてデロングは、ケインズミンスキーの考えが有用なFRBや予測マクロにかなりの程度流れ込んでることを指摘している(合わせて、喫茶店マクロからペテンマクロにもハイエクやフォン・ミーゼスらの考えがかなり流れ込んでいることを指摘し、オーストリア学派を皮肉っている)。


さらにデロングは、5番目の分類として政策マクロを付け加えている。

Policy macro is the intellectual framework that underpins the policies that the North Atlantic has followed since the start off 2010.
It is not in close dialogue with any of the others.
It has been, on the fiscal side, a complete disaster. It has been, on the regulatory side, a mixed bag. And it has been, on the monetary side, a very partial success.
(拙訳)
政策マクロは、北大西洋地域が2010年以降実施してきた政策の基盤となった知的枠組みである。
それは他のマクロとはあまり関連していない。
それは財政面では完全な失敗に終わった。規制面では、効果はまちまちだった。金融面では、非常に限られた成功にとどまった。


ノアピニオン氏は今後のマクロの方向性としてミクロ研究の充実を挙げているが、それに対しデロングは、ミクロ研究の充実も必要だが、ミクロからマクロへの集約手法についての改善も必要、と述べてエントリを締め括っている。