ジャネット・イエレンへの5つの質問

をTim Duyがブルームバーグ論説で投げ掛けている(H/T Economist's View)。
以下はその概要。

  1. 労働市場の現状?
    • イエレンは、失業率のような狭義の指標に代わり、より広範に労働市場をとらえる指標として、労働市場情勢指数(LMCI)の創設を提唱した。
    • LMCIは5月まで5ヶ月連続で低下しているにも関わらず、6月6日にイエレンは「…求人市場はかなり強くなっており、不況以来労働市場を圧迫してきたスラックはほぼ解消しつつある」と述べた。
    • LMCIが示しているのは、経済が完全雇用に近い状態にあるにせよ、今はそこから離れつつある、ということである。イエレンの指標が完全雇用という目標から遠ざかりつつある時に、FRBが依然として金利引き上げを検討している、というのは適切なことだろうか? それとも、LMCIは労働市場の状況に関する有用な指標ではないと判断した、ということなのだろうか?
  2. 量的緩和の効果を過小評価していないか?
    • FRB量的緩和の終了以来、ドルは上昇し、株価の上昇は止まり、イールドカーブは平坦化し、経済活動全般が鈍り、今や労働市場の勢いも鈍化しつつある。
    • 通常の考えではこれらはすべて金融引き締めの表れであるが、イエレンは、量的緩和終了は引き締めではなく、政策は依然として緩和的である、と主張している。
    • イエレンが量的緩和の効果を過小評価する一方で、現行の金融緩和の水準を過大評価している可能性があるのではないか?
  3. 最適管理か否か?
    • FRBインフレ目標を下方から達成することを決意しているように見える。即ち、FRBは、後で目標より上に行き過ぎることを避けるため、今は目標の2%を下回っているにも関わらず、政策を引き締めようとしているように思われる。
    • しかし過去にイエレンは、完全雇用というFRBの責務を果たすために明示的にインフレ目標を超えることを織り込む「最適管理」手法を唱えていた。
    • 最適管理下では、過少雇用の解消が遅れていることと労働市場環境が悪化していることを踏まえるならば、今のFRBは緩和的政策を継続して明示的にインフレ目標を超えることを目指すべき。
    • 以前唱えていた最適管理手法は間違いだった、と考えているのか? もしそうならば、なぜ考えを変えたのか?
  4. エバンスルールの一般化?
    • シカゴ連銀総裁のチャールズ・エバンスは、かつてのエバンス・ルール(=失業率が6.5%以上かつインフレ率が2.5%以下の状況での金利引き上げは行わない)のアップデートを提唱し、コアインフレが2%に達するまで金利引き上げを行わないことを提案した。インフレ目標を達成できないことはFRBへの信認を失わせる、という点でダウンサイド・リスクが大きいが、伝統的金融政策の有効性を考えるとアップサイド・リスクはそれほど大きくない、というのが彼の考え。
    • イエレンも最近の講演で政策リスクの非対称性への懸念を示し、インフレ期待の低下がインフレ目標達成を遅らせるかもしれない、と述べた*1
    • 過去に最適管理手法を支持したことと考え合わせると、イエレンはエバンスの考えを受け入れやすいはず。インフレ目標を達成するまで金利引き上げを行うべきではない、というエバンスの提案を支持するか? その支持もしくは不支持の理由は?
  5. 米国以外の世界をどの程度考慮しているのか?
    • 今年初め、ラエル・ブレイナードFRB理事は、多くの先進国がゼロ金利ないしそれ以下にある中で、国境を超えた波及効果を考えると、米国が他の主要国と異なる政策を採るのには限界がある、と述べた。
    • 昨年9月のFOMCでイエレンは、世界の状況や各国の相互連関によって米国の金融政策が制約されるという見方に否定的な見解を示した。
    • 過去半年の出来事、特に金融引き締めの話が繰り返されたにも関わらず長期金利が上昇しなかったことに鑑みて、自分の考えを見直してみたか? そうした制約のリスクの可能性が昨年9月の時の評価よりも高まった、もしくは低まったと考えるか?

*1:cf. 昨日エントリの最後の項。