と題した自ブログエントリで、ジョン・テイラーが以下の表を示している(原題は「A Monetary Policy Rule That Works: Powerful New Evidence」)。
ここで表の1列目がFRBがテイラールールを守っていた期間、2〜3列目が守っていなかった期間(=裁量的金融政策が実施されていた期間)の平均経済損失を示している。平均経済損失はパネルA〜Cの3種類が示されているが、いずれもインフレと失業率を組み合わせて計算したものである。3つのどのパネルにおいてもテイラールールを守っていた期間の経済損失の方がそうでない期間よりも小さい、というのが、テイラーが「強力な新証拠」と呼ぶ所以である。
この表を作成したのはテイラー自身ではなく、ヒューストン大学のDavid Papellだという。Papellはリーハイ大学のAlex Nikolsko-Rzhevskyyおよびヒューストン大学のRuxandra Prodanと共同で「(Taylor) Rules versus Discretion in U.S. Monetary Policy」という論文を書いており、テイラーは著者たちが論文内容を要約したEconbrowserのゲストエントリにリンクしている。論文では、テイラールールを守っていた期間と守っていなかった期間を区分けするのに、マルコフスイッチングモデルと構造変化検定の2種類の方法を適用している。その2種類の手法が上表の各パネルの2行に対応しているわけだ。また、その区分けによると、最近はテイラールールを守っていなかった期間が続いており、そのため上表では、同期間について、論文の分析期間と足元までデータを延長した期間の2種類をそれぞれ2列目と3列目に示している。
なお、PapellとNikolsko-Rzhevskyyのコンビによるテイラールール擁護論文としては、以前紹介した「テイラーのルール対テイラールールたち(Taylor’s Rule versus Taylor Rules)」がある。また、同コンビによるマルコフスイッチングモデルによる区分け手法については、先月紹介した論文でもまとめられている(これも今回の論文とほぼ同時期に書かれているが、ただし共著者はRuxandra ProdanからChristian J. Murrayに入れ替わっている)。ちなみに、そちらの論文ではボルカー時代にはテイラールールが守られていなかったことが強調されているが、そのことと上表の結果を考え合わせると、テイラーとは違った見方もできそうである。即ち、裁量的な金融政策というのは、テイラーが示唆するような経済状態悪化の原因ではなく、むしろ経済状態の悪化に対応するためにルールから離れた金融政策が要求されるという、いわば経済状態悪化の結果なのではないか、という見方である。この点について、小生は以前のエントリで以下のように書いたことがある*1:
・・・シーゲルの表現を借りるならば、経済危機というのは車の運転でコントロールを失った状態であり、そういった状況下ではハンドルやアクセルやブレーキをその場の判断に応じて操作するのは当然ではないか、という気もする。残念ながら、そうした危機下での状況対処方法がルール化されるほど我々は経験を積み重ねていないからである。
テイラー「FRBの目標は一つで良い」 - himaginaryの日記