新旧ケインジアンと経済の自律的均衡

マイク・コンツァルのWaPo論説を機に、経済は自律的に均衡するのか、という話題がブロゴスフィアで一頻り盛り上がった。その中でNick Roweが、オールドケインジアンの45度線モデルとISLMモデル、およびニューケインジアンモデルという3種類のモデルを取り上げ、各モデルにおいて自律的に完全雇用均衡に向かう力が働いているかどうかについて考察していたので、以下にまとめてみる*1

  • 45度線モデル*2
    • このモデルでは、均衡と完全雇用との関連は存在しない。
      • モデルでは供給要因は均衡に影響しないし、金融政策は影も形もない。
  • ISLMモデル*3
    • 条件次第ではあるが、完全雇用に向かう傾向は存在し得る。
      • その場合の基本経路は次の通り:
        Yが完全雇用水準以下→物価下落→実質貨幣供給M/P上昇→LM曲線が右にシフト→総需要増加→生産増加
    • ただし、以下の条件によってその経路は絶たれることがある:
      • 金融政策
        • 物価下落と比例的に名目貨幣供給を減らすような馬鹿な金融政策を行った場合は、完全雇用に向かう傾向は消える。
      • IS曲線とLM曲線の形状
        • その形状次第では、物価が幾ら下落しても、あるいは名目貨幣供給が幾ら増えても、経済が完全雇用に至るのに十分な低金利が得られない*4
      • 期待インフレ/デフレと実際のインフレ/デフレの関係
        • 物価下落によって人々がさらに物価が下がり続けると思えば、実質と名目の金利差は拡大し続け(=実質金利は上昇し続け)、需要は抑制される*5
  • ニューケインジアンモデル
    • (異論を承知で言うならば)このモデルには、たとえまともな金融政策を前提とした場合でも、完全雇用に向かう傾向は一切存在しない。ニューケインジアンモデラーは、モデルに存在しない長期の完全雇用を仮定しているに過ぎない。
    • 消費のオイラー方程式では、実質金利を適切な水準に保つことは、完全雇用の必要条件ではあっても十分条件では無い。実質金利で定まるのは、今日の需要の明日の需要に対する比率であり、需要が一貫して完全雇用水準の半分だったとしても、その実質金利と比率との関係は成立する。ニューケインジアンモデルでは、明日の需要が完全雇用水準にあることを天下り式に仮定している*6
    • ニューケインジアンモデルにはMが無いため、ISLMモデルのようなM/P経由の均衡メカニズムは存在しない*7。また、Pも存在せず、あるのはPの変化率たるインフレ率だけである。しかし、インフレ率の変化は、物価水準の変化と異なり、むしろ不均衡を拡大させる。というのは、デフレ期待は実質金利を上昇させるからである。

*1:Rowe先月のエントリ邦訳)で、経済が自律的に均衡するかどうかは金融政策次第、と論じたが、今回のエントリでは、同時に経済モデル次第でもある、と論じている。

*2:cf. ここ

*3:cf. ここ

*4:ex.流動性の罠(cf. ここ)。

*5:cf. ケインズの指摘

*6:この点についてRowe先月のエントリで論じており、今回のエントリでもそれを要約する形で繰り返しているが、そのRoweの要約ではやや論点が分かりづらいように思われるため、ここでは小生が別途要約した。

*7:ここで紹介したように、この点についてRoweは以前にも現代マクロ経済学理論を批判したことがある。