金融危機から経済学者が学ぶべき5つの教訓

オリビエ・ブランシャールが3/25のLSEのフォーラムで表題の件について語ったのをWSJブログが文字起こししているEconomist's View経由のデロングブログ経由)。


以下はその概要。

  1. 謙虚になるべき
    • 多くの経済学者は、大平穏期に、大規模な経済危機――金融危機や銀行危機――は過去のものになった、再発するとしてもせいぜい新興国においてだろう、と考えていた。
    • 第二次世界大戦後に生まれた自分たちの世代は、世界は良くなっていくものだと考えていた。しかし歴史は繰り返すものだし、そのことを自分たちは弁えておくべきだった。
       
  2. 金融システムはとても重要
    • ラムズフェルドのいわゆる分かっていない未知のことに我々が直面したのはこれが初めてでは無い。石油危機も想像の埒外の出来事だった。しかし数年後、それも結局はマクロ経済ショックだったということが分かり、石油市場の「配管」といった詳細にまで遡って理解を深める必要性は生じなかった。エネルギーや原材料の価格高騰をマクロモデルに取り込むことで話は済んだ。
    • 今回はそうはいかない。問題は金融システムの配管にあるので、それを理解する必要がある。IMFに参加する前は、FRBが一つの金利を設定すれば後はウォール街が裁定と期待仮説に基づいて宜しくやってくれる(プレミアムが変動するにしてもそれほど大きくは変動しない)、と単純に考えていたが、それは事実に即していなかった。金融システムで歪みや小さな衝撃が重なると、マクロ経済にも根本的な影響を及ぼすような悪影響が生じる。単純なモデルでマクロ集計量を扱えばよい、という考え方は今も間違っているとは思わないが、限界があったのは確かで、金融システムについては細部が問題になる。
       
  3. 相互の結び付きは重要
    • 米国で始まった危機はものの数日ないし数週間で海を渡った。国境を越えた債務債権関係の複雑さを我々は完全には把握していないが、リスクオン/リスクオフをきっかけとする国境を越えた資金の動きや、どの国がその逃避先となるか、といったメカニズムを理解するのは非常に重要なこととなっている。世界のある場所で起きたことは他の場所にも影響を及ぼす。最近のキプロスが良い例。
    • 貿易関係も同様。2009年の貿易の崩壊は危機がもたらした衝撃的な出来事だった。
       
  4. マクロプルーデンシャルツールが効くかどうか分からない
    • 金融システムの特定の問題に対処するのに従来の財政金融政策のツールが不十分なことは明らかで、そのためマクロプルーデンシャルツールが第三のマクロ経済政策の道具となる可能性がある。
    • しかし、これまで分かっているところによると、マクロプルーデンシャルツールは機能はするが、それほど大きな効果は発揮しない。人々や金融機関はいずれそれを迂回する方法を見つけるし、あるところで問題を解決しようとすると別のところで歪みを生じてしまう。
       
  5. 中央銀行の独立性は、中央銀行に今求められていることに相応しいものではない
    • 過去20年間にほとんどの中央銀行が選挙で選ばれた政府からの独立性を獲得したが、その独立が付与されたのは、任務と道具がはっきりしていたからである。即ちインフレ抑制が任務であり、道具は短期金利であった。
    • しかし、マクロプルーデンシャルツールまでも中央銀行の道具としてしまうと、政治プロセスからの監督が本当に必要無いかについては疑義が生じる。従来の金融政策に関しては独立性を残し、それ以外の部分については政治プロセスとの相互作用を考える、といった工夫が必要になろう。