2週間前、財政緊縮策批判派はマンデル=フレミングモデルを論破する必要がある、と指摘したクリス・ディローのブログエントリを紹介したが、恰もそれに応じるかのように、財政緊縮策批判派のサイモン・レン−ルイスがマンデル=フレミングモデル批判を展開している*1。
ただ、その批判はディローが展開したものとはある意味において逆になっている。というのは、ディローは為替がマクロ経済モデルの予言通りに動くことは滅多に無い、というのをマンデル=フレミングモデル批判の一つの根拠にしていたのだが、レン−ルイスは為替がマクロ経済の理論通りに動くことを前提にマンデル=フレミングモデルを批判しているからである。
ここでレン−ルイスが依拠している為替理論は、もちろんマンデル=フレミングモデルではなく、カバーなしの金利平価である。レン−ルイスによれば、カバーなしの金利平価は裁定理論に基づいているため、マンデル=フレミングモデルより強力な基礎を有している、とのことである。
従って、財政支出を行った場合、マンデル=フレミングモデルの予言通りに金利が上昇し、為替が増価したとしても、その財政支出が一時的なものならば(財政支出が一時的か恒久的かの区別を付けていないことがマンデル=フレミングの問題の一つ、とレン−ルイスは指摘する)、長期的な為替水準は変わらず、為替の減価が予想される。そのため、高い金利によって海外の投資家が得る追加リターンもその減価によって減じられることになる。即ち、財政支出は為替の増価によって部分的には無効化されるが、完全に無効化されることは無い、とレン−ルイスは言う。
ちなみにマンデル=フレミングモデルは通常は様々な曲線のシフトによって表現されるが、そうした表現は枝葉末節であるとして、レン−ルイスは同モデルの論理を以下のように表現している:
In TMF money demand must equal a fixed money supply. If money demand depends on prices, output and interest rates, and the first is fixed in the short run and the last is tied to world rates, then output cannot change either. This complete crowding is achieved through an appreciation in the real exchange rate.
(拙訳)
マンデル=フレミングモデルでは、貨幣需要は固定された貨幣供給に一致しなければならない。もし貨幣需要が物価、生産、および金利に依存し、短期的には物価が一定で、金利が世界金利によって繋ぎ止められているならば、生産も変化することができない。この完全なクラウディングアウトは実質為替相場の増価によって達成される。
その上で、この論理を以下のように批判している:
But why should domestic interest rates equal world interest rates? UIP tells us they need not.
(拙訳)
しかし、なぜ国内金利が世界金利と一致しなければならないのだ? カバーなし金利平価はその必要がない、ということを教えてくれる。
このレン−ルイスのマンデル=フレミングモデル批判にはクルーグマンが反応し、他の教科書はいざ知らず、学部向けの代表的な国際経済学の教科書となっている自分の教科書では、25年、9版に亘って長期水準への回帰を織り込んだ為替モデルを提示している、と指摘している。
また、Nick Roweは、マンデル=フレミングモデルが意味を持つとされる短期においては、為替は長期水準に戻るというよりはランダムウォークで近似した方が実態に近いのではないか、その場合は(2期モデルで言う)次期においても為替の期待水準は現在と変わらないことになる、とレン−ルイスに反論している。
*1:ただし文中にはディローへの言及は無い。レン−ルイスブログのサイドバーの定期的に読むブログリスト(Some blogs I regularly read)にはディローのブログも入っているので、該当エントリも読んでいるはずとは思われるが…。