というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「Exchange Rate Disconnect Revisited」で、著者はRyan Chahrour(コーネル大)、Vito Cormun(サンタクララ大)、Pierre De Leo(メリーランド大)、Pablo A. Guerrón-Quintana(ボストン大)、Rosen Valchev(同)。
以下はその要旨。
We find that variation in expected U.S. productivity explains over half of U.S. dollar/G7 exchange rate fluctuations. Both correctly-anticipated changes in productivity and expectational noise, which influences the expectation of productivity but not its eventual realization, have large effects. This “noisy news” is primarily related to medium-to-long-run TFP growth, and transmits to the exchange rate by causing significant deviations from uncovered interest parity. Together, these disturbances generate many well-known exchange puzzles, including predictable excess returns, low Backus-Smith correlations, and excess volatility. Our findings suggest these puzzles have a common origin, linked to productivity expectations.
(拙訳)
米国の予想された生産性の変動が、米ドル/G7の為替相場の変動の半分以上を説明することを我々は見い出した。生産性の正しく予想された変化と、生産性の予想に影響するが最終結果には影響しない、予想におけるノイズの両方が、大きな効果を持った。この「ノイズのあるニュース」は主に中長期のTFP成長率と関連しており、カバー無し金利平価からの顕著な乖離をもたらすことによって為替相場に伝播する。この擾乱が合わさって、予測可能な超過収益、低いバッカス=スミス相関*1、および過度の変動性といった多くの良く知られた為替パズルを生み出す。我々の発見は、これらのパズルには生産性予想に関連した共通の原因があることを示している。
コンビニエンスイールドと為替相場のパズル - himaginary’s diaryで紹介した論文では、コンビニエンスイールドを為替相場の各種パズルを解くカギとしていたが、ここでは3から5年先の予想ノイズ込みのTFPをそのカギとしている。
データとしては日次の米国以外のG7の対ドルレートの四半期平均を使い、それを貿易加重平均している。実質化に使ったCPIや、マクロ変数の投資や消費なども同様に貿易加重平均したとの由。ただ、頑健性チェックのために貿易加重平均の代わりに単純平均を使った場合や、海外(G6)を集計して一つにまとめずに各国別に分析した場合でも、結果は変わらなかったという*2。また、TFPは米国以外の使える四半期データが得られなかったので米国のTFPのみ使ったが、海外のソロー残差を使った代替的な分析でも同様の結果が得られたとのこと。
以下はその代替的な海外の個別分析の図。
左上のように時点ゼロでTFPの上昇ショックを与えた場合、右中の実質為替は、実際のショックの20四半期前から徐々に増価し(突然増価しないことは、ニュースのサプライズ要因があまり影響しないことを示している)、実際にTFPが上昇した後は長期平均に戻っていく、というのが論文の説明である。しかし、著者たちは言及していないが、日本円についてはそうした全体的な動きから外れており、ショックが起きるまでは横ばいで、ショックが起きた後にドルの増価=円の減価が進み、ショックから5年経っても戻る気配が無いように見える。サンプル期間は1978:Q3-2018:Q4とのことだが、現在の円の独歩安を彷彿とさせるグラフであり、現在の円安を読み解く一つの手掛かりになるのかもしれない。
*1:cf. 何が為替を動かすのか? - himaginary’s diary。
*2:仏独伊は途中からユーロになっているので、その期間の3国間の実質為替の差はCPIの差をそのまま反映していると思われることや、海外金利としてユーロドル金利のみを使っていることなど、残存するデータの偏りが気になるところではあるが。