現在の金利だけを見て金融政策が引締め気味か緩和気味かを判断してはならない、現在の経済は過去の金融政策の結果なのだから、というのはサムナーの口癖であるが、最近のエントリでぽつぽつ紹介しているイエレンの11/13講演でもそれに類したことが述べられている。
Ironically, while this transparency lawsuit was wending its way through the courts, Robert Lucas and others were publishing research that would garner several Nobel prizes and ultimately overturn the traditional wisdom that secrecy regarding policy actions was the best policy. A key insight of these scholars was that monetary policy affects employment, incomes, and inflation to a large extent through its effects on the public's expectations about future policy. Many spending decisions, such as financing the purchase of a home or businesses' capital expenditures, depend on longer-term interest rates that are connected to monetary policy through expectations of short-term interest rates over the lifetime of a mortgage or an investment project. In other words, the effect of monetary policy on the economy today depends not only, or even primarily, on the FOMC's current target for the federal funds rate or the quantity of assets on its balance sheet, but rather on how the public expects the Federal Reserve to set the paths of these variables in the future. These expectations influence longer-term interest rates and asset prices as well as the public's views concerning the likely future paths of income and inflation.
(拙訳)
皮肉なことに、そうしたFRBの透明性を巡る訴訟の裁判が進行している時に、ロバート・ルーカスらは、ゆくゆくは幾つかのノーベル賞を獲得すると共に、政策行動は密なるをもってよしとするという昔からの知恵を最終的には引っ繰り返すことになる研究を公表していました*1。そうした学者たちの重要な考察は、金融政策が雇用、所得、インフレに影響を及ぼすのは、将来の政策に関する人々の予想を通じて、という面が大きい、というものでした。住宅購入や企業の投資に資金を振り向けるといった支出の決定の多くが長期金利に左右されますが、その長期金利は、住宅ローンや投資プロジェクトの期間を通じて短期金利がどう推移するかという予想を通じて金融政策と結び付いています。言い換えれば、金融政策が今日の経済に与える影響は、FFレートやFRBのバランスシート上の資産の額に関するFOMCの現行目標だけに依存するわけではなく、それが主たる決定要因でさえありません。むしろ、そうした経済変数の将来の経路をFRBがどのように設定するか、という点についての人々の予想に依存しているのです。そうした予想は長期金利と資産価格のほか、所得とインフレが推移するであろう経路についての人々の想定にも影響します。
この直後に、29日エントリで紹介した石油ショックの事例が続く。
なお、昨日のエントリで類型化させて頂いた貨幣の第五の機能の信奉者は、現在の貨幣の状況しか見ておらず、こうした期待を通じた効果の重要性を無視していることも一つの特徴として挙げられるだろう*2。
*1:[12/2追記](原注)While Robert Lucas mainly analyzed models in which only monetary surprises have any effect on real activity, his important insight in the present context was that the perceived monetary policy rule is critical in determining the effects of monetary policy actions, both anticipated and unanticipated.
(拙訳)ロバート・ルーカスは、予期せぬ貨幣の動きのみが実体活動に影響を及ぼすモデルを主に分析していましたが、今日の文脈から見た彼の重要な考察は、人々が認識していたところの金融政策ルールが、実施された金融政策――その実施が予期されていたかされていないかを問わず――の効果を決定する上での鍵となる、というものです。