F分布はx分布になるはずだった?

計量経済学者のDave Gilesが、F分布ロナルド・フィッシャーに因んでスネデカー命名したにも関わらず、フィッシャー自身はそれを喜んでいなかった、というエピソードを紹介しているEconomist's View経由)。


Gilesが引用したこちらのサイトによると、フィッシャーは 1/2 ln(F) に相当するz分布を提唱しており、F分布の表わす分散比の分布の方が良い、という考えに説得されなかったとの由。


同サイトではフィッシャーのスネデカー宛ての私信をソースとして挙げているが、それには以下のように書かれている*1

I am afraid I have a difficulty which you may not know of in assigning the particular symbol "F" to the variance ratio, and that is, that a table of this value derived from my table of z was published in India, I think in Sankhya, before yours. The author, if I remember right, used a different symbol - probably x. I feel it would be too complicated to make a sub-heading using the different designations.
(拙訳)
"F"という文字を分散比に付与することについては、貴兄がご存知ないと思われる問題が存在する、と考えております。その問題とは、私のz分布表から導出されたその統計値の表が、貴兄が出版するより前に、Sankhya*2だったと思いますが、インドで出版されている、ということです。私の記憶が正しければ、その著者は別の記号――多分xだったと思いますが――を使用しています。違う記号を副題に用いるのは、必要以上に話をややこしくするのではないか、と思います。

なお、Gilesは、F分布に纏わるもう一つのエピソードとして、その特性関数がずっと間違って表記されており、スネデカーの1934年のCalculation and Interpretation of Analysis of Variance and Covarianceの出版から48年後に漸く修正された(Peter PhillipsのBiometrika論文)、という話を紹介している。

*1:同サイトでは他にフィッシャーのHeckstall-Smith宛ての私信もソースとして挙げているが、そちらはリンク先のアーカイブ見つからなかった

*2:HP