スターウォーズの政治学

NYTのサイトでたまたま見かけたコラム記事が面白かったのでご紹介*1
書いたのはNYTコラムニストのRoss Douthatで、コラムの日付は1/24である。そこでDouthatは、マイケル・リンド(Michael Lind)*2が書いた1/18付けSalon記事の以下の一節を槍玉に挙げている。

If there was a moment when the culture of enlightened modernity in the United States gave way to the sickly culture of romantic primitivism, it was when the movie “Star Wars” premiered in 1977. A child of the 1960s, I had grown up with the optimistic vision symbolized by “Star Trek,” according to which planets, as they developed technologically and politically, graduated to membership in the United Federation of Planets, a sort of galactic League of Nations or UN. When I first watched “Star Wars,” I was deeply shocked. The representatives of the advanced, scientific, galaxy-spanning organization were now the bad guys, and the heroes were positively medieval — hereditary princes and princesses, wizards and ape-men. Aristocracy and tribalism were superior to bureaucracy. Technology was bad. Magic was good.
(拙訳)
米国の近代的な文明開化の精神がロマン主義的な原始主義の精神に取って代わられた瞬間があったとすれば、それは、映画「スターウォーズ」が封切られた1977年だろう。1960年代に子供時代を送った私は、「スタートレック」に象徴される楽観主義的な未来像と共に成長した。「スタートレック」では、各惑星は技術的にも政治的にも発展を遂げ、国際連盟ないし国際連合の銀河系版である惑星連邦の一員となっている。最初に「スターウォーズ」を見た時、私は深い衝撃を受けた。進化した科学的な全銀河系に亘る組織はそこでは悪玉で、英雄たちは明らかに中世的だった――世襲制の王子と王女、魔法使いに類人猿といった感じだ。貴族政治と部族主義が官僚制度に勝るものとされていた。技術は悪で、魔法は善、となっていた。


これに対しDouthatは、ではリンドはプリクエル・トリロジーをどう思ったのか、と疑問を投げ掛けている。というのは、そこでジョージ・ルーカスは、オリジナル三部作に関してリンドが上記で挙げた問題点にほぼすべて回答しているように思われるからである:

  • レイア姫の母親であるナブーのアミダラ姫は選挙で選ばれており、君主としての任期を終えた後に元老院議員を務めている。
  • 魔法と思われたフォースにも、「ミディクロリアン」という形で科学的説明が与えられた。それはジェダイの血に流れる微生物で、副作用として宿主にテレキネシスの力を与えるとされている。
  • 反乱軍が再建しようとしている失われた共和国は、まさに「国際連盟ないし国際連合の銀河系版」であることが明らかとなった。ジェダイ騎士団はそこで平和維持軍の役割を果たしており、ライトセイバーはいわば青いヘルメットである。


そしてDouthatは、コラムを以下の言葉で締めくくっている。

For Lind, then, I can only assume that watching the prequels was an immensely gratifying experience. And for the rest of us, the knowledge that Lind’s prescription for “Star Wars” helped produce three of the most disappointing science-fiction blockbusters ever made should be reason enough to reject his prescription for America without a second thought.
(拙訳)
そうしてみると、リンドはプリクエル・トリロジーを見て満足したに違いない。しかし彼以外の我々にしてみれば、リンドの「スターウォーズ」に対する処方箋がかつてないほど残念なSF大作3編を生み出すのに一役買ったことを知ったわけで、それは彼の米国に対する処方箋を一も二もなく却下する十分な理由となる。

*1:[2/2追記]エントリのタイトルはファンボーイズにすべきだったと暫し後悔。

ファンボーイズ [DVD]

ファンボーイズ [DVD]

*2:ニューアメリカ財団のEconomic Growth ProgramでPolicy Directorを務め、「アメリカの内戦」の著者でもある。