未来の物価計測手法?

エズラ・クラインと昨年末に婚約した*1経済記者のAnnie Lowreyが、インターネットを用いた物価指数について昨年12/20のSlate記事で報告している(H/T マンキューブログ)。


記事はまず、現在のCPIの計測に掛かる手間について報告しているが、それによると、全米90都市の約23,000の小売業者や企業において、何百という政府の役人が、仕様が細かく定められた各商品の価格を記録している、とのことである。そのために年間2億3400万ドルもの費用が掛かる、という。


それに対し、2007年にデータ収集を開始して昨年11月にヴェールを脱いだMITの経済学者Roberto RigobonとAlberto CavalloによるBillion Prices Projectでは、インターネットを入力元として物価指数を計算している。調査対象は70ヶ国の300のオンライン小売業者で、500万の品目を対象にしているという(米国については50万品目との由)*2
なお、こちらの集計方法はCPIに比べると至って簡単で、対象品目の価格変化を何のウェイトも付けずに単純平均しているとのこと。それでもCPIを良くトレースしているとのことである。
また、CPIが月次データであるのに対し、こちらは日次データである、という利点を持つ。そのため、より早期に物価の傾向を掴むことができるほか、例えば以下のような新しい考察が得られた、という。

  • 一般の報道に反し、2010年のブラックフライデーの値下げが平均物価に与えた影響は2009年より小さかった。
  • 経済学者の従来の想定に比べ、小売業者の価格改定は、頻度は少ない半面、変化率は大きい。


さらに、Googleの経済学者Hal Varianも、Googleのデータベースを用いた同様の物価指数の算出を計画しているという。まだその具体的内容は明らかになっていないが、Varianによると、予備的な計算ではやはりCPIを良くトレースしたとのことである。ただ、CPIではデフレには陥っていないのに対し、Google物価指数ではデフレに陥った時期が存在した、という。


では、こうしたより安価に素早く測定できる物価指数がCPIに取って変わる日が来るのだろうか? その点についてLowreyは慎重な見方を示している。現行のCPIの石器時代的とも言える手法には、安定性と継続性、およびこれまで長年の風雪に耐えてきた、という利点がある、と彼女は指摘する。しかも、BPPとGoogleの指数はそのCPIに近い動きを示し、現行のCPIに特に問題があることを示したわけではない。従って、時代の変化に応じた改良が施されるとしても(実際、これまでもそういった改良はあった)、現行のCPIも基本的に今の形で残るのではないか、と彼女は予測している。BPPやGoogleのような新たな物価指数は、コアインフレのように、別種の物価指数という位置付けになるのではないか、というのが彼女の見立てである。

*1:出所

*2:リンク先によると、日本はまだデータ収集中となっている。