バロー対バロー

昨日のエントリで紹介したサージェントのインタビューの中に、手厚い失業手当てが却って高失業率をもたらす、という趣旨の発言があった。


先月30日に、バローが現在の米国の高失業率について同趣旨のWSJ論説を書いたところ、各所から批判を浴びた。左派系の人々から批判されるのは予想の範囲内だが、今回はMarginal Revolutionのアレックス・タバロックやEconlogのアーノルド・クリングも批判の戦列に加わった。中でもタバロックは、あろうことかバローの息子のジョシュ・バローの論説を持ち出してきて、息子の方に軍配を上げている。


マンキューは例によってバローの論説にリンクを張るだけに留まっているが、Economist's Viewが関連各記事を紹介しているので、以下ではそれに沿って各人の反応を簡単にまとめてみる。

  • ロバート・ライシュ
    • 大部分の州で提供される失業手当は、被給付者が失業したことで失った収入のごく一部に過ぎない。また、多くの州では、失業者の中で手当を貰えるのは全体の40%以下に過ぎない。従って、失業者の多くが手当のために失業状態に留まっている、というのは現実離れした議論。今は、求職者5人に1つの割合でしか職が存在しないのだ*1
    • バローは、今回の大不況の失業率は1981-82年の時と同程度だが、長期の失業者は当時より多い、と言う。そしてその理由を、当時の失業手当の給付期間が今より短かったため、と結論付ける。彼は、当時の景気後退が今ほどひどいものでは無く、今回よりかなり早く終わったことを見落としているか、もしくは敢えて無視している。
    • 失業手当は、当事者やその家族にとってだけではなく、経済全体にとっても利益になる。というのは、それによる支出が他の人々の雇用維持につながるからだ。
  • アレックス・タバロック
    • バローは、失業手当の99週への延長が起きていなかった場合、長期失業者の比率が1983年6月のピークの24.5%と同水準だったと仮定すると、失業率は9.5%ではなく6.7%に留まっていた、という計算を示している。しかし、今回の不況の長期失業者の比率が1983年の同水準になるという仮定を置く理由が良く分からない。
    • バローはまた、米国の福祉が西欧諸国と似たようなものになった、と書いている。然るに、息子のジョシュ・バローは以下のように書いている
      • FRBの2つの研究が、現在の失業率のうち0.4〜1.7%は失業手当の延長によるもの、と報告している。だが、それらの研究を仔細に見てみると、その効果がそれほど大きかったかは疑わしく思える。
      • 失業手当延長のインセンティブの効果は、総需要へのプラスの効果と併せて見る必要がある。失業手当の受給者は、それをすぐに支出する傾向が高い。また、差し押さえや立ち退きや自己破産を防ぐ効果もある。
      • 従って、個人的には、労働市場がこれほど弱い時期には失業手当を延長するのは良いことではないか、と思う。これが欧州型の恒久的な無制限の手当につながるということは心配していない。米国では、民主・共和両政権下を通じて、不況期に失業手当を延長し、好況時に戻すということを何度も繰り返してきたからだ。
    • 失業手当と失業率の因果関係、欧州型高福祉社会への変容の恐れの両面について、ジョシュの勝ちと言わざるを得ない。


また、Economist's Viewは、最後に、Modeled Behaviorという集団ブログのカール・スミス(Karl Smith)のエントリも紹介している。スミスによると、経済学者の世界というのは他人が思うよりも序列社会なので、高名な経済学者が何か馬鹿なことを言っても、かつては皆俯いているだけだった、との由。しかし、良くも悪くもブログがそれを変え、今回のバローの発言には36時間以内にあらゆる党派の経済学者が飛びついた、と書いている。