WCIブログのNick Roweが貨幣数量説に関して面白い解釈を提示している。それによると、交換方程式
MV=PY
において、
M=暖房のために燃やした灯油
V=外界温度
P=室内温度
と解釈すべきだと言う。
もしサーモスタットが正常に機能していれば、消費燃料(M)と外界温度(V)の間には強い負の相関が見られるはずである。しかし、消費燃料(M)と室内温度(P)の間には相関が見られないはずである。また、外界温度(V)と室内温度(P)の間にも相関が見られないはずである。
ある計量経済学者が単純にこのデータを観察した場合、燃料消費は室内温度に何ら影響を及ぼさない、と解釈するかもしれない。また、外界温度も室内温度とは無関係である、と解釈するかもしれない。そして、Mの増加はVの減少に帰結し、Pには影響しない、と結論付けるかもしれない。
別の計量経済学者は、同じデータを見て、因果関係は逆方向であるとして、外界温度上昇の唯一の効果は消費燃料の減少だ、と結論付けるかもしれない。Vの増加がMの減少に帰結し、Pには影響しない、というわけだ。
どちらの計量経済学者も、MとVはPに無関係である、ということでは意見が一致している。そこで両者は暖房のスイッチを切り、無駄な燃料消費を止めようとするだろう。
Roweのこのエントリは、中央銀行をサーモスタットに喩えたフリードマンの論説*1に基づいているという。
また、米国の経済ブログスフィアで最近巻き起こった貨幣数量説に関する論議も受けているとのことである*2。その論議とは、具体的には
を指している。
さらにRoweは、自分が以前同様のことを書いたことを指摘している。それが、(拙ブログではここで取り上げた)昨年1/10のエントリである。簡単に言えば、政策当局者が情報Iに基づき政策変数Cを用いて目標変数Tをコントロールしようとした場合、Tの目標T*からの乖離はCともIとも無相関であるはず、という話である。
ちなみに上記のベックワースのエントリでは、(FRBのサーモスタットがきちんと機能した)大平穏期にはまさにMとVが対称的な動きを示していたのに対し、(FRBのサーモスタットがあまり機能していなかった)1960〜70年代にはそうした対称性が見られないことをグラフで示している*3。
このRoweの議論を敷衍すると、現在はサーモスタットが以前ほどうまく機能せずに室内温度が下がってきているので、燃料をもっと投下すべし、ということになろう。それに対し、いやいや燃料をこれ以上投下したら暖房炉が爆発してしまう、というのがハイパーインフレ警戒論者の立場ということになるだろう。