市場を捨つるほどのリフレ効果はありや

FT Alphavilleのカーディフ・ガルシア(Cardiff Garcia)が、ベックワースとのこれまでの論争の内容を整理している*1


論争のテーマを一言で言うと、超過準備への付利を下げる(ないし撤廃する)と市場に混乱が起きるが、本当にそうしたコストを払うに値するリフレ効果が得られるのか、ということになる*2


ここで付利撤廃がもたらす市場の混乱の代表例として挙げられているのが、銀行が超過準備を安全資産の一つと見做して資金を置いていたのに、付利が無くなれば、行き場を失った資金は国債に殺到する、という状況である。その点については、ダン・キャロル(Dan Carroll)というブロガーが、FRB国債を売るという「不胎化」操作によりそうした状況を緩和できるのではないか、と指摘した


さらに、ミシガン大学で数学と経済を専攻する学部生のブロガーYichuan Wang*3が、自ブログで、ガルシア、ベックワース、キャロルの三者の主張を整理し、ガルシアを唸らせた。


ガルシアの引用するWangの考察で一つ面白いのは、(小生が以前ここで取り上げた)デロングの法則を持ち出して三者の議論を整理している点である。

Another framework in which sterilized IOER makes sense is DeLong’s law, a modification of Say’s law and Walras’ law. …

This framework clearly delineates between what Beckworth, Garcia, and Carrol are proposing. Beckworth argues that lowering IOER directly solves excess demand for money, and therefore go on to solve excess demand for safe assets. But Garcia argues lowering IOER directly increases excess demand for safe assets to such an extent that it overwhelms any reduction in excess demand for money. So while directly cutting IOER reduces excess demand for money, it’s ambiguous whether it reduces the general glut for goods. Carrol’s proposal then comes in the middle, as cutting IOER reduces excess demand in money while sterilization reduces excess demand for safe assets.
(拙訳)
不胎化された付利が意味を持つ枠組みとしてもう一つ考えられるのが、セーの法則ワルラスの法則を修正したデロングの法則である。・・・
この枠組みは、ベックワース、ガルシア、キャロルの主張の違いを綺麗に線引きする。ベックワースは、付利の低減が貨幣への超過需要を直接的に解消し、それによって安全資産への超過需要も解消する、と論じる。しかしガルシアは、付利の低減は安全資産への超過需要を直接的に増加させ、その増加によって貨幣の超過需要の減少は完全に打ち消されてしまう、と論じる。即ち、付利を直接的に下げることは貨幣需要を減少させるが、財需要の飽和を緩和するかどうかは分からない、というわけだ。キャロルの主張は両者の中間に位置し、付利の低減で貨幣への超過需要を減少させると同時に、不胎化で安全資産への超過需要を減少させる、ということになる。


こうしてみるとキャロルの折衷案が良いように思われるが、ガルシアはそれに納得せず、やはり付利は維持すべき、という自らの立場を堅持している。

*1:同エントリは、ベックワース自身も、優れたまとめ(one epic post)と評している

*2:ベックワースがこの論争の当事者となったのは、FT Alphaville7/20エントリでガルシアがこの問題を提起し、是非とも市場マネタリストの方々の見解をお伺いしたい、と(悪く言えば)挑発したのに対し、ベックワースがそれに応じたためである。

*3:少し前に別件でタイラー・コーエンマシュー・イグレシアススコット・サムナーが相次いで彼のエントリを取り上げるということがあった。