デビッド・ベックワースとStephen Williamsonが最近の米短期金融市場の動きに首を捻っている。
その動きとは、2018年初めまでは
IOER > FF金利 > 翌日物レポ金利 ≳ ON-RRP金利
の関係が概ね成立していたのが(ただし、IOER=超過準備預金への付利、ON-RRP=翌日物リバースレポ)、2018年初頭以降はFF金利もレポ金利もIOERに収束してON-RRP金利が下限としての意味をほぼ失い、かつ、最近ではFF金利がIOERを上回る局面も見られるようになった、というもの。
やや古い図だが、4つの金利の関係を示したSam Schulhofer-WohlとJames Clouseによるシカゴ連銀のWPのグラフをWilliamsonの昨年半ばのエントリから孫引きすると、以下の通り。
これが、Williamsonの直近のグラフを引用すると、最近では以下のようになっている。
グラフ期間のIOERは一貫して2.4%だったが、最近ではFF金利(青線)が最大5ベーシスポイント(bp)程度IOERを上回るようになっている*1。レポ金利(赤線)はより変動が大きいが、FF金利と同様の傾向を示している。銀行はFF金利で貸し出しを行えば5bpの利益が得られるのに、なぜその機会を見過ごしているのか、というのがWilliamsonが呈している疑問である。
なお、以前はレポ金利がFF金利を下回っていたのが、レポ金利がFF金利に近いところまで上昇したのは、量的緩和の手仕舞い(および、FRBに言わせれば、国債の発行増)に伴いレポ取引に使用する担保債権の稀少性が無くなったためではないか、とWilliamsonは述べている*2。対照的に、短期国債金利は最近FF金利を下回って推移していることを彼は指摘している。またWilliamsonは、レポ金利を平滑化するためにFRBが同市場に介入することを提案している*3。
ベックワースも以下のFF金利とIOERのグラフを示して、FF金利が最近IOERを上回るようになったことを指摘している*4。
また、レポ金利については、ベックワースは以下の図を示し、異なる種類の国債レポ金利が共にIOERを上回るようになったことを指摘している。
さらにベックワースは以下の2つの図を示して、銀行間取引が縮小していることと、レポ取引が拡大していることを指摘し、レポ市場が銀行間市場に恒久的に置き換わりつつあるのではないか、という見方を示している。
こうした状況に鑑み、ベックワースは、短期金利誘導をフロアシステムからカナダ型のコリドーシステムに変更することを提案しており、後続エントリでその具体的な内容を示したい、と書いている。
なお、ベックワースのエントリのコメント欄ではopsearcherというコメンターが以下のようなコメントを行い、政府支援機関(GSE)、就中、連邦住宅貸付銀行(FHLB)の行動の変化が金利の動きの変化の背景にあるのではないか、と指摘している。
The reason for the rise on the effective Federal Funds Rate (EFFR) is a shift in the pattern of GSE, predominantly FHLB, lending. IOER had served as a kind of ceiling since FHLBs could lend money (especially their excess cash late in the day) to banks which would then earn the IOER rate. It is crucial to note that this source of funds was loaned at the lower end of the distribution of rates used in computing EFFR. Currently the FHLBs are making use of recently developed sweep accounts which allow them to invest their funds outside the EFFR market, as well as lending to the Fed via RRP. Thus the distribution of the Fed Funds rate has changed, causing it to rise above IOER. Absent GSE lending in the Fed Funds market, why would a bank lend at or below the IOER rate? It would not since there is no better counterparty than the Fed. In this way IOER is becoming more of a floor for banks. For other lenders eligible to lend to the Fed via RRP, that is a floor.
(拙訳)
実効FF金利(EFFR)が上昇した理由は、GSE、特にFHLBの貸し出しパターンが変化したことにある。これまではFHLBなどが資金(特に日中の遅い時間の余剰現金)を銀行に貸し出し、それがIOERで回されるため、IOERは一種の天井としての役割を果たしてきた。この資金は、EFFRを計算する上での金利分布の低い端で融資されることには大いに注意すべきである。現在、FHLBなどは、最近設定されたスイープ口座を利用するようになっており、それによってEFFR市場の外で資金を運用できるほか、RRPを通じてFRBに融資している。そのためにFF金利の分布が変化し、IOERを上回るようになったのだ。FF市場でGSEによる貸し出しが存在しないのであれば、銀行がIOER金利ないしそれ以下で貸し出す理由があろうか? FRBより良い取引相手が存在しない以上、そうする理由は無い。こうして、IOERは銀行にとってむしろフロアとなりつつある。RRPを通じてFRBに貸し出す資格を持つそれ以外の貸し手にとっては、それがフロアだ。
*1:なお、FRBは5/2よりIOERを5bp引き下げて2.35%にしている。
*2:ちなみにFF金利がIOERを下回る理由についてはここでギャニオンらの見方を紹介したことがある。
*3:今やFF金利よりもレポ金利を重視すべき、というのがWilliamsonの立場である(これは前注でリンクしたギャニオンの5年前の提言に沿った立場)。彼はAndolfattoとIhrigが提案するstanding repo facilityがその目的のために使えるのではないか、と述べている(AndolfattoとIhrigは非常時の手段としてその制度を提案しているが、非常時には皆国債を欲しがるのでそういう目的のための手段としては意味が無く、むしろ平時の短期金利誘導手段として用いるべき、というのがWilliamsonの見解である)。特に月末にレポ金利が跳ねることをWilliamsonは問題視している。ちなみに非常時について言えば、ここやここで紹介したように、現金を持つ主体がFRB相手のリバースレポに殺到してそれ以外の取引が干上がってしまうのではないか、というのが一般的な懸念のようなので、Williamsonの言うことに一理あるように思われる。
*4:赤線はovernight bank financing rate (OBFR)というLIBOR問題を受けてNY連銀が作成した別の銀行間金利(cf. この資料のp.15)。