FRBはバランスシートを大きいままにしておくべきか?

ジャクソンホールねたでは、バーナンキ表題のブログ記事(原題は「Should the Fed keep its balance sheet large?」)も話題になっている(H/T Economist's View本石町日記さんツイート)。
以下はその一節。

Because the size of the Fed’s balance sheet is closely tied to its methods for influencing short-term interest rates, the debate at Jackson Hole was about which “package” makes more sense: (1) the pre-2008 system that includes a relatively small balance sheet and the management of the funds rate through operations that vary the supply of bank reserves; or (2) the current system that includes a large balance sheet and the setting of the IOER and the interest rate on RRPs to establish the fed funds rate. The FOMC’s publicly announced strategy, reiterated by Janet Yellen in her opening speech, is to return over time to the pre-2008 system. The plan is to do this, at the appropriate time, by ending the reinvestment of maturing securities, thereby allowing the balance sheet to shrink “naturally,” and by phasing out the RRP program, so that non-banks will not be able to make deposits at the Fed.
Does this plan make sense? The answer is not clear cut, but based on the discussions at the conference, I’ll offer three arguments for changing course and keeping the balance sheet close to its current size in the long run, while managing interest rates through the payment of interest on bank reserves and a continued RRP program.
(拙訳)
FRBのバランスシートの大きさは、FRB短期金利に影響を与える手法と密接に関連しているため、ジャクソンホールでの議論は、どちらの「パッケージ」がより合理的かを巡るものとなった:

  1. 比較的小さなバランスシートと、準備預金の供給を変更するという運用を通じたFF金利の管理という2008年以前の体系
  2. 大きなバランスシートと、超過準備への付利とリバースレポの金利の設定によるFF金利の確定という現行の体系

ジャネット・イエレンの開会講演で改めて示されたFOMCの公けの方針は、時間を掛けて2008年以前の体系に戻る、というものである。計画では、満期を迎える証券への再投資を停止することによってバランスシートを「自然に」縮小させるほか、リバースレポから徐々に撤退して非銀行がFRBに預金できないようにする、という施策を適切なタイミングで実施することによって、そうした移行を行うことになっている。
この計画は合理的だろうか? その答えは明確ではないが、コンファレンスでの議論から、方針を変更して長期的にバランスシートを現行の大きさに近いものに維持し、準備預金への利子の支払いとリバースレポの継続によって金利を管理するべき、という3つの主張をここで提示してみたい。

バーナンキが提示する3つの主張は概ね以下の通り。

  1. 安全で流動性の高い短期資産の提供
    • Robin Greenwood、Samuel Hanson、Jeremy Steinの議論。
    • 民間にはそれらの資産への需要が強く存在するが、供給も民間に任せると、安価な短期の調達資金を基にした長期のリスクの高い投資行動に走る恐れがある。だが、ひとたび短期資産の裏付けとなる資産の質への疑義が生じると、そのような形の資金調達は急速に消滅する。このメカニズムが今回の金融危機の主因であった。
    • FRBによる短期安全資産の提供は、そうした投機的な行動を少なくとも部分的にクラウドアウトすることができる。
  2. 金利伝達経路としてのリバースレポの効率性
    • Darrell Duffie、Arvind Krishnamurthyの議論。
    • FRBFF金利を比較的正確にコントロールできるとしても、銀行は様々な理由によってFF金利の変動を預金者や借り手にそのまま伝達しないかもしれない。また、銀行の預貸金利の関係や、証券市場の主要金利も、市場のフラグメンテーションや不適切な流動性によって不完全なものとなるかもしれない。
    • リバースレポでは非銀行がFRBと直接取引するため、適切な規模のリバースレポを維持した方が、FRB金利決定を金融市場により正確に伝達できる。
  3. 金融危機時の最後の貸し手としての機能の確保
    • 金融機関は、金融危機時にFRBから借り入れることを躊躇う。それは、借り入れることによって弱い金融機関だという「烙印(stigma)」が押されることを嫌がるため。
    • しかし例えばユーロ圏ではそのような烙印問題はさほど深刻ではない。それは、欧州の金融機関は平常時でもECBと預金と借り入れの双方向においてそれなりの規模の取引を行っているため。
    • モラルハザードの問題や法的環境の違いという問題はあるにせよ、危機対応の能力を高めるためにバランスシートの大きな水準を維持すべき、という議論は説得力を持つ。


ジャクソンホールで出たこうした主張への反論、およびそれへの再反論として、バーナンキは以下の2つを紹介している。

  • リバースレポの危険性
    • 危機時に投資家が民間の短期資産を捨ててFRBへの貸し出しに走ることにより、リバースレポ政策自体が金融危機時に不安定性を増す要因となる可能性がある。
    • ただ、リバースレポ取引の規模に制限を掛けることや、リバースレポ金利を低くすることにより、こうしたリスクは軽減できるのではないか。また、上述のFRBのバランスシートを大きく保つことの危機時におけるプラス面も考慮すべき。
  • 財政リスク
    • シムズの指摘:中銀の保有資産が大きいと金融損失リスクも大きくなる。それは最終的には政府の財政状態にも影響するため、議会な反応を呼び起こし、中銀の独立性を脅かすことにつながりかねない。従ってバランスシートは「細身の」状態に保つべき。
    • ただ、中銀の金融リスクは保有資産全体の規模ではなく構成に依存するのではないか。安全でデュレーションが2-3年以内の資産を主な保有資産とすれば、恒常的に大きなバランスシートが過度の金融リスクにつながるとは限らない。