CBDCがFRBのバランスシートに与える影響

というFRB論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「The Effects of CBDC on the Federal Reserve's Balance Sheet」で、著者はChristopher Gust、Kyungmin Kim、Romina Ruprecht。
以下はその要旨。

We propose a parsimonious framework to understand how the issuance of central bank digital currency (CBDC) might affect the financial system, the Federal Reserve’s balance sheet, and the implementation of monetary policy. We show that there is a wide range of outcomes on the financial system and the Federal Reserve’s balance sheet that could reasonably occur following CBDC issuance. Our analysis highlights that the potential effects on the financial sector depend critically on how the Fed manages its balance sheet. In particular, CBDC could in principle put substantial upward pressure on the spread of the federal funds rate and other wholesale funding rates over the interest rate on reserves unless the Fed expanded its balance sheet to accommodate CBDC issuance.
(拙訳)
我々は、中銀デジタル通貨(CBDC)の発行が金融システム、FRBのバランスシート、および金融政策の実施にどのように影響する可能性があるかを理解するためのパラメータ節約的な枠組みを提示する。我々は、CBDCの発行後に金融システムとFRBのバランスシートに十分に起こり得る広範囲の結果があることを示す。我々の分析は、金融部門に起こり得る影響が、FRBが如何に自分のバランスシートを運営するかに大きく左右される、ということを強調する。特に、CBDCは原理的には、FRBがCBDC発行に対応してバランスシートを拡大しない限り、フェデラルファンド金利や他の卸売りの資金調達金利の準備預金金利に対するスプレッドに相当の上方圧力を掛け得る。

本文では、CBDCにそれほど需要が無い場合、ないし、専ら現金交換を代替するに留まり、銀行預金の代替に至らなければ、FRBのバランスシートへの影響は限定的、としている。一方、CBDCの需要が大きく、銀行預金の代替に至れば、FRBのバランスシートへの影響は大きくなる。その際、FRBが準備預金のマネジメントをしなければ、バランスシートの規模は変わらないものの、準備預金は大きく減り、それを相殺する形でCDBCが大きく増えることになる。モデルでは、準備預金の大きな減少は、準備預金への付利に対する卸売の資金調達金利の相対水準に相当の上方圧力を掛ける。その場合、豊富な準備預金を前提とする体制下の中銀は、CBDCの銀行部門への影響を和らげるために資産(国債)を購入してバランスシートを拡大し、準備預金の十分なバッファを維持する必要がある。
具体的には、CBDCの需要が少ないシナリオでは、準備預金の減少幅は1000億ドル――2022年の米GDPの0.4%――以下に留まり、調達金利への上方圧力も小さいため、準備預金のマネジメントのためにFRBが資産購入を行う必要性も乏しい。一方、CBDCの需要が1兆ドル――2022年の米GDPの4%――のオーダーとなり、銀行預金からCBDCへの流出が相当額に上る場合には、CBDC発行以前の準備預金の水準を維持して金利への上方圧力を緩和するために、バランスシートを1兆ドル近く拡大する必要がある。
以下は、大きなディスインターミディエーションが生じたシナリオでの中銀と銀行部門のバランスシートならびに金利の変化を、準備預金のマネジメントがある場合と無い場合について示した図表。