Nick RoweがWCIブログの9/3エントリで面白いことを述べている*1。
...the New Keynesian IS curve, with any reasonable assumption of learning from experience, will give you a Wicksell-like process, only instead of the price level rising/falling without limit, it's real output that rises/falls without limit. If some agents catch on to the model they are living in, all that does is speed up the process.
(拙訳)
・・・ニューケインジアンのIS曲線は、経験からの学習について合理的な仮定を置けば、ヴィクセル的な過程を生じる。ただし、価格が限界無しに上昇/下降する代わりに、実質生産が限界無しに上昇/下降する。もし主体のうち幾人かが自らの存する経済モデルを理解すれば、その過程は一層早まる。
ここで言うヴィクセル的な過程とは、通常は以下のようなプロセスを指す。
現実のインフレも予想インフレもゼロである完全雇用の状態を考えてみよう。金融当局が名目金利を自然利子率より低い水準に固定したものとする。これは金融拡張を必然的に伴い、ついにはインフレをもたらす。現実のインフレが高まるのに応じて予想インフレも高まれば、フィッシャー効果によって金利に上昇圧力が掛かる。固定金利を維持するためには、さらなる金融拡張が必要となる。それはインフレをさらに加速させ、その加速は政策が転換されるまで続く。同様に、金利が自然利子率より高い水準に固定されれば、政策が転換されるまでデフレが加速していく。
(拙ブログ9/2エントリでのHowitt論文の拙訳より)
これに対し、ニューケインジアンのIS曲線ではオイラー式が累積過程をもたらす、とRoweは言う。
というのは、オイラー式において金利が低下すると、今期の消費の効用が来期の消費の効用に比べて高まるため、人々は来期の消費を減らして今期の消費を増やす。しかし、皆が消費を増やせば、合成の誤謬の逆で、実質生産が高まり、来期に消費できる量が予想より増加する。そして、来期も低金利が続けば、同じプロセスが繰り返され、生産はどんどん拡大していく。
もちろん、生産には供給側の制約があるので、実際にはこの過程によって無限に生産が拡大することは無い。ただ、企業の独占的競争に基づく考察では、経済は通常は供給制約が問題になる水準以下で稼動しているので、低金利によって拡大していく余地がある、というのがRoweの考え方である。
そして、経済の主体が上記のメカニズムを理解すれば、彼らはより消費に励み、拡大プロセスは加速するだろう、というのがRoweの指摘である*2。
ちなみにRoweは、今回のエントリをニューケインジアンモデルに疑問を投げ掛けた以前のエントリの続きとして書いたとのこと。エバンスのビデオのお蔭で、以前より疑問点を明確化することができたとの由。