新フィッシャー派はニューケインジアンよりもニューケインジアンモデルを正しく理解している

The Everyday Economistブログを運営するジョシュ・ヘンドリクソン(Josh Hendrickson)が、Peter Howittの1992年論文*1を参照しつつ、ジョン・コクランらフィッシャー式逆さ眼鏡派/新フィッシャー派*2のニューケインジアンモデル解釈は正しい、と論じている


彼によれば、Howittの論文を単純なニューケインジアンの枠組みに落とし込むと、以下のようになる。

 IS方程式:
   y_t = -\sigma (i_t - E_t \pi_{t+1} - r^*)

 ニューケインジアンフィリップス曲線
   \pi_t = E_t \pi_{t+1} + \phi y_t

ここでyは生産ギャップ、πはインフレ率、iは名目金利、rは自然利子率、Eは期待演算子、σとφはパラメータである。 中銀が金利を固定し、π*を望ましいインフレ率と考えるならば、合理的期待均衡において
   \pi_t = E_t \pi_{t+1} = \pi^*
が成立する。この結果を上の2つの方程式に当てはめると、均衡インフレ率は
   \pi_t = i_t - r^* = \pi^*
となり、まさにコクランらが論じたように、均衡インフレ率は名目金利の増加関数となる。


コクランらを批判するニューケインジアンは、この結果を都合良く無視し、Howitt論文の別の結論に飛びついている、とヘンドリクソンは言う。そのHowittの別の結論は合理的期待から離れることによって導かれているのだが、ニューケインジアンモデル自体は合理的期待からの乖離は想定していない。従って、コクランらに反論するに当たってHowittを援用している人たちは、ニューケインジアンモデルを放棄していることになる、と彼は指摘する。


以下は彼のエントリの結論部。

Thus, we are left with an unfortunate conclusion. The New Keynesian discussion of policy doesn’t fit with the New Keynesian model of policy. Thus, either the model is wrong and the discussion is correct or the discussion is wrong and the model is correct. But consider the implications. Much of policy advice that is given today is informed by this New Keynesian discussion. If the model is correct, then this advice is actually wrong. However, if the model is wrong and the discussion is correct, then the New Keynesians are correct in spite of themselves. In other words, they still have no idea how policy is working because their model is wrong. Either way we are left with the conclusion that New Keynesians have no idea how policy works.
(拙訳)
以上から、我々は残念な結論に辿り着く。ニューケインジアンの政策論議は、ニューケインジアン政策モデルと合っていない。従って、モデルが間違っていて彼らの論議が正しいか、彼らの論議が間違っていてモデルが正しいかのいずれか、ということになる。このことの意味を考えてみよう。今日の政策提言のかなりの部分はそうしたニューケインジアン論議に基づいている。もしモデルが正しいならば、それらの提言は実際には間違い、ということだ。しかし、モデルが間違っていて彼らの論議が正しいならば、ニューケインジアンは自らに反して正しいことになる。換言すれば、彼らのモデルは間違っているので、その場合でも彼らはやはり政策の働きを全く理解していない。いずれにせよ、ニューケインジアンは政策の働きを全く理解していないという結論に帰着するわけだ。


コメント欄では、あるコメンターが冒頭部の以下の文章を「This is a great sentence」として激賞している。

However, I would submit that John Cochrane understands the New Keynesian Model better than the New Keynesians and that if his prediction is wrong, then this has more to do with how little New Keynesian models teach us about monetary policy.
(拙訳)
だが、私はジョン・コクランはニューケインジアンモデルをニューケインジアンより良く理解しており、彼の予測が間違っているならば、そのことはむしろニューケインジアンが金融政策について如何に我々に教えることが無いかという話に関係している、と主張したい。


また、Nick Roweが以下のようにコメントしている。

Good post Josh. But I would say it a little differently. The New Keynesians have an equilibrium model, but a disequilibrium story of what keeps us on that equilibrium path.
(拙訳)
ジョシュ、良エントリだ。ただ僕ならもう少し違った言い方をする。ニューケインジアンは均衡のモデルを持っていると同時に、経済をその均衡経路に乗せるための不均衡の物語を持っている*3

*1:cf. ここ

*2:cf. ここ

*3:cf. ここで紹介したRoweのエントリ。