ロバート・ホールのインタビュー〜株式市場の評価、知的所有権、経済学の現状

今週はロバート・ホールのミネアポリス連銀インタビューをテーマごとに順を追って紹介してきたが、今日は残りの3つのテーマをまとめて紹介する。

株式市場の評価

  • ただ、eCapitalとホールが名付けたそうした無形資本の評価尺度は、1970年代半ばから1980年代に掛けてはマイナスになっていた。マイナスのeCapitalは意味をなさないので、この尺度の使用に当たっては慎重さを要する。
  • eCapitalがプラスになったのは1990年。1974年から1990年までは、株価を押し下げる何らかの要因が存在していた。市場がそうした株価の過小評価に気付いたため、今度は株価を押し上げる力が働いた。そのため、1980年から1999年の20年間の株式の投資収益率を測定すると、大幅な超過リターンが見られる。この辺りにはまだ未解明の謎が残っている。
  • 現在の株価は概ね適正水準にあると思われる半面、1999年以降現在までのリターンはあらゆるベンチマークを下回っている。従って、1999年時点では行き過ぎによる株価の過大評価があったと思われる。

知的所有権

  • (インタビュアーが、知的所有権著作権法や特許が技術革新を促進ではなく阻害しているという意見についてどう思うか、と尋ねたのに対し)問題なのは特許であって、著作権法は問題になり得ない。著作権法は音楽などの表現に関するものだが、すべての表現は唯一無二のものなので。
  • 特許が問題になり得るのは、あることに関して論理的に明白な次の段階に対し特許が掛けられた場合。しかし、そうしたことが実際に起きているという強力な証拠は見られない。
  • 特許についてあれこれ言う人がいるが、実際に強制を適用しようとして問題となるのは全体のごく一部に過ぎない。その半面、特許制度は、真の技術革新を行った者に相応の報酬をもたらしてきた。特許制度全体を批判する人や、ビジネスモデル特許ソフトウェア特許を認めないという人には与しない。
  • 同時に、特許は永続するべきではない、という考えには皆と同様に賛成する。それによって、技術革新の成果の大部分は、生産性や実質賃金の上昇という形で最終的に労働者に回ることになるのだ。もしそうでなければ、特許の持ち主の永続的かつ独占的な利益が巨額の技術革新価値という形で株式市場に現れているだろうが、実際はそうなっていない。

経済学の現状

  • 自分は今回の金融危機に際して経済学者が世の期待に応えられなかったとは思わない。
  • 第一に、不動産に大きく依存した高レバレッジの金融システムが不動産価格の下落に対し脆弱であることは、マクロ経済学者は十分に理解していた。多くの経済学者が、自己資本比率の低い銀行の危険性を指摘していた。銀行規制を直ちに改めて、問題が起きる前に銀行の自己資本を強化する、という考えを経済学者は大いに支持し、規制当局がそう約束したにも関わらず行動を起こさなかったことに不満を抱いていた。
  • 第二に、金融システムの崩壊が深刻な景気後退をもたらすことについても、マクロ経済学者は十分に理解していた。Handbook of Macroeconomicsに収録されたバーナンキらの有名かつ尊重されている論文*1は、まさにこの問題を余すところ無く分析している。金融機関の自己資本の枯渇は、経済活動を阻害するレベルまで金融の摩擦を上昇させてしまうのだ。特に、信用に依存していた工場、設備、在庫、住宅、耐久消費財への支出が壊滅的な影響を受けてしまう。この論文は今回の景気後退の深刻度に関する優れたガイドブックとなっている。

*1:cf. これ