4/24エントリでロバート・ルービンの責任論が浮上していることを取り上げたが、その後も議論が続いている。特にルービン批判の急先鋒に立っているのがフェリックス・サーモンで、直近の5/1エントリでは、ジェイコブ・ワイズバーグ(「ルービン回顧録」の共著者)のルービン擁護論を槍玉に挙げている*1。
こうしたルービン批判は、彼がシティに天下りした後の同社のリスク管理問題にまで及んでいるが、やはり財務長官時代のデリバティブ規制への対応、なかんずく、当時のブルックスリー・ボーンCTFC委員長のデリバティブ規制の動きを潰したことが焦点となっている。
ここで注意すべきは、サーモンのエントリのコメント欄で指摘されているように、ボーンはいきなり規制に乗り出そうとしたわけではない、という点である。まず店頭デリバティブ市場の実態を把握したい、ということで、コンセプトペーパーという調査票を発行しようとしたところ、それすらルービン、サマーズ、グリーンスパンらの猛反対に遭って潰された、というのが真相のようである。その点は、そのコメンターがリンクしたEconomics of Contemptの約1年前のエントリ*2で以下のように指摘されている。
Born issued a "concept release," which merely asked questions about the OTC derivatives markets. The concept release didn't propose even one regulation, and actually went to great lengths to emphasize that it wasn't proposing any regulations.
・・・The concept release essentially asked the financial industry for its analysis of the costs/benefits of a broad range of regulatory approaches to OTC derivatives. For some reason, the entire financial industry flipped out. Just look at how much the concept release bent over backwards to emphasize that it was purely informational, and should not be interpreted as a regulatory proposal:
The Commission urges commenters to analyze the benefits and burdens of any potential regulatory modifications in light of current market realities. The Commission has no preconceived result in mind. The Commission is open both to evidence in support of easing current restrictions and evidence indicating a need for additional safeguards. The Commission also welcomes comment on the extent to which certain matters are being or can be adequately addressed through self-regulation, either alone or in conjunction with some level of government oversight, or through the regulatory efforts of other government agencies.
Sound the alarms!
Seriously though, we had clients calling the firm all week long flipping out about the concept release—which they usually referred to as "the new OTC derivatives regulations." They were allegedly concerned about the legal status of existing OTC derivatives, even though the concept release clearly stated that any new regulations would be "applied prospectively only," and that:This release in no way alters the current status of any instrument or transaction under the Commodity Exchange Act. All currently applicable exemptions, interpretations, and policy statements issued by the Commission regarding OTC derivatives products remain in effect, and market participants may continue to rely upon them.
The way that Greenspan, Rubin, Arthur Levitt, and Larry Summers treated Born was particularly appalling. As regulators, they should have immediately realized how benign and non-threatening Born's concept release was. And even if they had substantive disagreements with her, they should never have aired those disagreements in public. The whole thing reeked of sexism.
Economics of Contempt: Brooksley Born(拙訳)
ボーンが発行したのは「コンセプトリリース」であり、それは店頭デリバティブ市場に関する質問票に過ぎない。コンセプトリリースは規制に関する提案をただの一つも含んでおらず、実際、如何なる規制も提案するものではない、という点を大いに強調している。
・・・
コンセプトリリースは基本的に、金融業界に対し、店頭デリバティブへの様々な規制手法について、彼らから見た費用便益分析を尋ねたものである。しかしなぜか、金融業界全体の頭に血が上ってしまった。コンセプトリリースが、単なる情報収集であって規制の提案と解釈するべきではない、という点を強調することに如何に腐心したかは、以下を読めば分かるだろう。委員会は、回答者が、いかなる潜在的な規制変更がもたらす利益と負担も、現在の市場の現実に照らして分析することを要請する。委員会には、結果に関する事前の期待は存在しない。委員会は、現在の規制を緩和する方向を支持する証拠であれ、追加的な保障措置の必要性を指し示す証拠であれ、共に受け入れる用意がある。委員会はまた、ある種の問題がどこまで自己規制で適切に対処されている、ないし、できるか、についてのコメントも歓迎する。それは自己規制単独の話でも構わないし、あるいは自己規制が、政府の一定の監督、もしくは他の政府機関の規制に向けた努力と連動した場合の話でも構わない。
警戒警報発令!
真面目な話、当時の我々の法律事務所は*3、その週はずっと、このコンセプトリリースによって頭に血が上った顧客からの電話を受けていた。顧客はそれを大抵「新しい店頭デリバティブ規制」と呼んでいた。彼らは既存の店頭デリバティブの法的位置づけについての懸念を口にしていたが、コンセプトリリースはいかなる新たな規制も「今後に関してのみ適用される」と明確に述べており、さらに以下のように記述していた。このリリースは商品取引法下の商品ならびに取引の現状を変更するものでは決して無い。店頭デリバティブ商品に関して委員会が出した現行の免除規定、解釈、および政策声明は引き続き有効であり、市場参加者はそれに依拠し続けることができる。
グリーンスパン、ルービン、アーサー・レビット、そしてラリー・サマーズのボーンに対する扱いは、とりわけ手ひどいものだった。彼らは規制当局者として、ボーンのコンセプトリリースが如何に良識的で脅威にはならないかを即座に理解すべきだった。仮に彼女と重大な意見の相違があったにせよ、その食い違いを世間に公表すべきではなかった。女性差別の匂いがそこかしこに感じられる。
この後の文章で、Economics of Contemptは、ボーンに対する賛辞を連ねている。その点では、彼が(ボーンと昨年のProfile in Courage Awardを共同受賞した)シーラ・ベアを口を極めて罵っているのと対照的である。
また、こうしてみると、ルービンの旗色が一層悪く映る感は否めない。