いかにしてサマーズはハーバードに18億ドル損させたか

というエントリをフェリックス・サーモンが11/29に上げている。そこで彼は、同日のボストングローブの記事を取り上げ*1、サマーズのハーバード学長時代の強気の姿勢が、ハーバードに18億の損をもたらした、と書いている。


以下はその拙訳。

大抵の人は、伝説的なファンドマネージャーを投資と流動性の面倒をみてもらうために何百万ドルもの報酬で雇ったならば、その人間の助言に耳を傾ける。しかし大抵の人々はラリー・サマーズではない。

それは毎年少なくとも1度は起きた。ハーバード大の財務を担当する職員が部屋にひしめく中、大きな成功を収めたハーバード大基金のトップであるジャック・メイヤーと、当時ハーバード大学長だったローレンス・サマーズが、熱い議論を交わした。話題は、現金と、大学がどのようにその基本的な運転資金を運用している――もしくはしていない――か、だった。


議論の現場にいた人によると、メイヤーは、2000年代の前半、大学が何十億ドルという現金のほとんどを大学基金の株式、債券、ヘッジファンドプライベートエクイティポートフォリオに投資するというのはあまりにもリスクを取りすぎている、とサマーズと他の大学職員に繰り返し警告していた。その後、メイヤーの後任者であるモハメド・エラリアンも、サマーズやハーバードの財務担当者や理事たちに対し同様の警告を行なった。


「モハメドは心臓発作を起こさんばかりだった」と元の財務幹部は、ハーバードとサマーズの怒りを買うことを恐れて匿名を条件に語った。彼によると、そうした現金の投資は、大学の投資リスクを「倍加させた」。


しかし、警告に耳を貸すものはいなかった。

サマーズは、驚くべきことに、大学の現金の100%をハーバード大基金に投資しようとしていた。そのため、80%にまで下げるよう説き伏せられねばならなかった。メイヤーとエラリアンが彼にやめさせようと説得したのも無理は無い。ハーバード大基金は、すぐに必要になるかもしれない資金を投資するための場所では決してない。基金は、非常な長期の投資によって流動的性の低い投資から高い収益率を稼ぐための場所なのだ。


サマーズは、ハーバードの現金を使ってリスクの高いキャリートレードのゲームをしていたのだ。

積極的な現金の投資は、大学がその「中央銀行」を運営してきた歴史の一部である。「中央銀行」は、大学の様々な学部から託された資金に対し、見返りとして米国債金利を支払う。その一方で、「中央銀行」は、集められた資金のかなりの割合を大学基金に投資してきた。そうして得られた収益は、大学寮や奨学金といった大学全体の必要経費に充てられた*2

本質的には国債金利で借りて非流動的な長期の基金に投資するというこの高リスク戦略について、サマーズに異議を唱える度胸のある者はいなかった。少なくとも、ハーバードのパートタイムかつ無給のカリフォルニアに住む財務部長ジェームズ・ローゼンバーグには無理だった。


サマーズが去った後、惰性で物事は続き、何もなされなかった。多分それは、エラリアンもすぐにいなくなったせいもあろう。その結果、ハーバード大は資金60億ドルの27%、つまり18億ドルもの損失を蒙ることになった。もちろん、サマーズからの謝罪めいた言葉などあるはずもない。


このサーモンのエントリには、ブラッド・デロング(少なくともそう名乗る人物)からコメントが付いた。想像される通りサマーズ擁護のコメントで、2001-2007年に基金は確か年11%のリターンを上げていたので、短期金利が3%とすると、プレミアムは 6 x (11% - 3%) = 48% になる。27%の損失を考えても、差し引き21%のプラス*3をハーバードにもたらしたのではないか、とのことである。これに対しサーモンは、本来決済に使うべき資金の流動性を犠牲にしているではないか、と反論している。


また、サマーズ一人ではなくハーバードの投資委員会全体の責任ではないか、というコメントに対し、サーモンは、流動性を確保すべき現金口座を大学基金の投資に振り向けたのはやはりサマーズ一人の責任だ、と主張している。


なお、サーモンがハーバードの損失に絡んでサマーズを非難するのはこれが初めてではなく、7/23には、サマーズ時代に結ばれたフォワード金利スワップ契約で10億ドルの損が生じた、と書いている。これに対し、マンキューが匿名の反論を紹介したところ、サーモンがさらにそれに反論する(このエントリにはEconomics of Contempt氏のコメントも見られる)、という展開が見られた。

*1:ちなみにこの記事にはマンキューもリンクしている。

*2:サーモンが引用したボストングローブ記事のこの一節の直前には、「Investing cash from the general operating account in the endowment wasn’t new under Summers, nor was it unique to Harvard. It had been done as far back as the 1980s at the university, officials say, but on a smaller scale.」と書かれている。つまり、サマーズが特別なことを始めたわけではない(ただしここまで大規模にやったのは初めてかもしれないが)という主旨の段落の一節なので、サーモンがサマーズ攻撃のために引用したのは少し不適当だったような気がする。後述のコメントに対する彼の反論を見ると、そうした歴史的経緯も無視して大学基金への投資がすべてサマーズの責任かのように述べており、少し冷静さを欠いているようにも見える。

*3:後のコメントで、対数で計算し直して、正確には15.8%だね、と訂正している。