タイタンの戦い

サマーズとエドワード・グレイザーが、ブルッキングス研究所のシンポジウムでインフラ投資を巡って意見を戦わせた。その内容についてサマーズ本人が自HPで5項目にまとめているがブルッキングス研究所も両者の言い分を箇条書きにまとめているEconomist's View経由のMatthew Kahn経由)。


以下はそこで紹介されたサマーズの言い分の概要*1

  1. インフラ投資の拡大は経済成長を加速する
    • インフラは交流を拡大し実質的な距離を縮めるため、交易や集積化を促進する
    • インフラ投資では高リターンが見込める一方、政府の借り入れコストはゼロに近い。
  2. メンテナンス投資の重要性は見過ごされがちである
    • 悪路のために強いられる車の修理代などを考えれば、インフラのメンテナンス投資のリターンは極めて高い。
    • 学校の壁の修繕などは金銭的リターンが高くないかもしれないが、社会は教育を評価しているのだ、ということを示す社会的価値がある。
    • メンテナンスの先送りは次の世代の債務負担を積み重ねることになる。
  3. 安全の向上とオプション価値も社会的便益計算に含めるべき
    • ニューヨークの航空管制はあまりにも古いため、全面刷新しなければ最高水準の安全を達成できない。
    • 100年前にマンハッタンに地下鉄を建設したことは今日における巨額の価値を生み出した。同じことを今やろうとしたら遥かにお金が掛かる。
  4. 受益者負担はインフラを賄う効果的な方法である一方、税控除は悪しき考えである
    • インフラを良く使う人がその対価を支払うのは理に適っている。
    • トランプ氏の提唱する請負業者への税控除は、必要なインフラを復旧させるのではなく、いずれにしろその多くが実施されたであろうプロジェクトの施工業者の懐を潤すことになる*2


一方、グレイザーの言い分の概要は以下の通り。

  1. インフラ投資はミクロ経済学的な方法を用いて評価されるべき
    • 雇用やマクロ経済的な効果に力点を置いてしまうと、間違った場所のインフラに投資してしまう。今投資すべきは成長し繁栄している都市圏(サンフランシスコ、NY)であり、ウエスバージニアやラストベルトではない。
    • また、マクロ経済学に力点を置くと、モンタナの納税者にNYの空港を利用する大金持ちのための費用を支払わせるということになりかねない。
  2. 受益者負担は通常は最善の資金調達モデルだが、常にではない
    • グレイザー自身は、乗車料金ではなく駅ビルからの収益で資金を賄っている香港の地下鉄方式が気に入っている。インフラ関連の固定資産税収入と便益を結び付けるやり方もありではないか。
  3. インフラ投資は正しい機関と結び付いた時に最も効果的になる
    • 空港のような公的インフラの民営化や、官民共同事業の形態も検討すべき
  4. 現行のインフラを維持することは最もリターンが高いと思われ、新技術が現れるかもしれないからといってそれを無視すべきではない
    • メンテナンスは最優先課題で、公的資金で賄う必要がある。
    • その一方で、自動運転車レーンなどの新技術への投資は、完全な受益者負担で実施できるだろう。
  5. バスは良い、電車は悪い
    • 電車にできて専用レーンを走るバスにできないことはそれほど多くない。
    • バスには柔軟性があり、自動走行などの新技術の導入や、経路変更が容易。

*1:ちなみにサマーズはGDPの1%のインフラ投資を主張したとの由(cf. ここ)。

*2:cf. ここで紹介したロン・クラインの論説。