コント:ポール君とグレッグ君(2009年第8弾)

今回は平和かつ学術的(!)なやり取り。

グレッグ君
最近ポール君は、多くのマクロ経済学者が財政政策について自分に同意しない、ということで現代マクロ経済学の状況におかんむりのようだけど、マーティ・アイケンバウム(Marty Eichenbaum)、ラリー・クリスティアーノ(Larry Christiano)、セルジオ・レベロ(Sergio Rebelo)の新しい論文でご機嫌になるんじゃないかな。この論文では、ニューケインジアンのDSGEモデルを使って、金利がゼロ下限にある経済で財政政策の乗数効果が大きいことを報告しているよ。
ここで質問:この論文の結果は、ジョン・コーガン(John Cogan)、トビアス・クイック(Tobias Cwik)、ジョン・テイラー(John Taylor)、ボルカー・ウィーランド(Volker Wieland)の結果と矛盾しているようなんだけど、どう考えれば良いのかな? こちらも同様なモデルで同様な政策シミュレーションを行なっているんだけど? モデル、もしくは政策シミュレーションに微妙な違いがあるのかな? もしくはどちらかのチームが単に何か間違えたとか? この著名な2つの研究者チームが財政政策の乗数についてどうして正反対の結論を導き出したのか、そしてどちらが現実の政策への応用に適しているのか、を調べるのは、意欲のある院生の論文のテーマにちょうど良いと思うよ。
ポール君
グレッグ君の質問に答えて進ぜよう。アイケンバウムらの論文の方は、流動性の罠に対する反応としてモデルが構築されており、罠から脱出したら話が終わることになっていると同時に、財政政策が罠からの脱出を助ける可能性を持たせている。コーガンらの論文の方は、流動性の罠を、単に固定金利が2年続くと仮定することで済ませている。
あと、コーガンらでは、今の政府の大きな支出が将来の増税につながると消費者が信じているため、消費を減らすと仮定していることにも注意すべきだろう。それに、将来の金利上昇予想のために投資も減ることになっている。そういう仮定を信じるのは自由だが、現代マクロ経済学が必然的に意味するところを適切に示しているわけじゃあない。
一方、アイケンバウムらで高い乗数が導かれている大きな要因は、財政政策がデフレスパイラルを防ぐ可能性にある。ところで、アイケンバウムらのあれこれ最大化するモデルでも、倹約のパラドックスが実際に起きることが示されたというのは素晴らしいことじゃないかな。誰かジーン・ファーマとジョン・コクランに知らせたかい?
あと、コーガンらはブラッドが指摘したことをまさにやっちまったことで得点を大きく失っているね。つまり、ローマー・バーンスタイン分析を、ゼロ金利下限を想定しない分析と比較するということなんだけどね。