プリンストン大のBenjamin Mollが、経済モデルを以下の3つの世代に分類している(PPT、H/T Mostly Economics)。
- 第一世代:1930〜1990
- 第二世代:1990〜金融危機
- 初期の不均一主体モデル
- “マクロ⇒格差”だが、“マクロ⇍格差”
- 第三世代:金融危機後
- ミクロデータを大いに取り入れた現在の不均一主体モデル
- 多様な相互作用:“マクロ⇔格差”
その上で、自身の共著論文「Monetary Policy According to HANK」で提示したHANK(Heterogeneous Agent New Keynesian)モデルを第三世代のモデルとし、金融政策の効果という観点から第一世代のRANK(Representative Agent New Keynesian)モデルと対比させている。
- 消費の実質金利への反応
- RANKモデルでは直接的な反応が95%以上で、生産を通じた間接的な反応は5%以下。
- 異時点間の代替により、直接的な反応が理論のすべてとなる。
- しかしデータでは、消費の金利への感応度は低く、生産への感応度は高い。
- ミクロの感応度は不均一性が大きく、家計のバランスシートに決定的に左右される。
- ミクロデータと適合させたHANKモデルは現実的な感応度を示し、消費の実質金利への反応は、直接的な反応が1/3以下で、生産を通じた間接的な反応は2/3以上。
- 富の分布がもたらす直接的な効果は小さく、限界消費性向の分布がもたらす生産の変化による間接的な効果が大きい。
- リカード中立性が成立するRANKと違い、HANKでの全体の効果は財政対応に大きく影響される。
- RANKモデルでは直接的な反応が95%以上で、生産を通じた間接的な反応は5%以下。
- 金融政策vs財政政策
- 裕福で消費性向の高い家計のいるHANKモデルでも、財政政策はRANKモデルよりも効く。
- RANKでは金融政策と財政政策に明確な優先順序があり、ゼロ金利下限より上では金融政策だけで最善の均衡配分を回復できる(「聖なる一致」)。
- HANKではそれはもはや成立しない。
- 市場が不完全で分布が問題になる時、財政政策が金融政策より望ましい場合があるかも。
Mollはこの論文を日銀の2017年国際コンファレンスでプレゼンしており、こちらの資料でその模様が紹介されている。また、PPT資料でMollは、イエレンやコンスタンシオECB副総裁の講演と並んで、同コンファレンスの黒田総裁の開会の辞を、不均一主体モデルの重要性を強調したものとして引用している。