ビル・クリントン「デリバティブ規制についてもっと言うべきだった」

ニューヨークタイムズのデビッド・レオンハートのブログに、同紙のピーター・ベーカー記者がクリントン元大統領の記事を書くに当たって行なったインタビューの記録が掲載されているEconomist's View経由)。


そこでクリントンは、自分の政権が続いていた、もしくはアル・ゴアが政権に就いていたら今回の問題は起きなかっただろうし、また、アーサー・レビットが引き続きSEC委員長の座にあったら話は違っていただろう、と述べている。それに対し、でもクリントン時代に危機の種は撒かれていたのではないか、と記者が突っ込んだところ、世に自分の罪状として言われているものとして以下の3点を挙げた。

  1. 地域再投資法(Community Reinvestment Act)の強化。この法案による投資の90%以上、3000億ドルがクリントン政権下で実施されたが、それにより多くの小銀行が本来は家を買うべきでない人々に貸付を行なった。これは右派からの批判である。
  2. グラス・スティーガル法の撤廃。これは左派からの批判。
  3. デリバティブを規制するようにもっと文句を言うべきだった。


このうち最後の点については、驚くほど率直にその批判の正しさを認めている。同時に、この件に関しサマーズとルービンは最近不当に批判されていると述べ、かつての部下を庇う姿勢を見せる一方で、規制反対の責を専らグリーンスパンに負わせるような言い方をしている。また、レビットが自由市場に介入しようとしているとしてSECへの予算を脅した当時の共和党議会や、プロが取引する商品は透明性に欠けていても問題ない、格付け会社がチェックするから大丈夫、と論じた規制反対論者を逆に槍玉に上げている。


グラス・スティーガル法撤廃については、既に銀行業務を行なわない銀行(=投資銀行)が業容を拡大していた中で、銀行が投資銀行に参入するのを認めたことは業務リスク分散化の点でむしろ良かったし、今回の危機の原因にはなっていない、と述べている(これについてインタビュアーは、確かに破綻したリーマンとベア・スターンズ投資銀行専業であり、両方の業務を行なっていたJPモルガンチェースはうまく切り抜けた、とその発言を首肯している)。
ただ、実際に起きたことを促進した効果はあったかもしれないことは認めている。さらに、その後SECが機能不全になると分かっていたら撤廃しなかっただろうと述べて、再び後任のブッシュ政権をチクリと批判している。


地域再投資法への批判については、アリアナ・ハフィントンHuffington Postに書いた地域銀行は問題無いという記事を援用して、批判は意味をなしていないと一蹴している(これについて記者がHuffington Postを読むのか、と驚いたのに対し、ブログはたくさん読む、と答えている)。そして、そうした貧困層を底上げした政策が、90年代の幅広い経済成長の一因になったのだ、と自賛して、00年代の住宅、金融、過剰消費に支えられた成長と対比させている。

それに対し、インタビュアーが、90年代には株式バブルがあり、それがその後の問題につながっていったのではないか、と批判すると、これまで「自分が政権を続けていたら今回のことが起きたと思うかい?」と訊いてイエスと答えた人はいない、と改めてブッシュ政権に問題があったという見方を強調している。


こうしたクリントンの見解について、Economist's ViewのMark Thomaは、グリーンスパンに遠慮していた彼の姿勢から考えると、クリントンが政権の座にあったとしてもやはり今回の事態は防げなかったのではないか、という疑問を呈している。