FTの編集者ライオネル・バーバー*1が、今回の危機に関するマスコミの自省の弁を書いている。イェール大学で講演したものの要約とのこと。
内容をざっとまとめると以下の通り。
- 今、マスコミにはインターネット革命による構造的な衝撃、今回の経済危機の衝撃に続いて、第三の衝撃が訪れている。それは、今回の経済危機を予見できなかったことの責任を問われる、というもの。金融記者にとっては、大恐慌以来という一世一代のチャンスに巡り合ったという意味では最良の時だが、そうした面を考えると最悪の時でもある。
- マスコミに問われているのは、ウォーターゲート事件の審判の時と同様、何を知っていたのか、そしてそれをいつ知ったのか、ということ*2。
- 確かにマスコミだけが職務遂行に失敗したわけではない。政治家も規制当局者も経済学者も失敗した。ただ、ルービニのように警告を発した学者も少数ながらいた。
- なぜそうした警告を見落としたか、については二つの理由が挙げられる。
- もう一つの問題は、マスコミが取材源の金融関係者に親しくなりすぎ、良いニュースばかりを書くようになっていたこと。この問題、すなわち取材源と適度な距離と緊張関係を保つことは、マスコミにとって古典的な問題であるが…。
- 今考えると、4つの反省点が挙げられる:
- 規制緩和を称賛するあまり、その問題点、特に今回の危機の大きな原因となった店頭派生商品市場の規制の欠如の問題を見落としていた。グリーンスパンはそうした規制に反対していたが、それを問題視すべきだった。
- ファニーメイやフレディマックに対する暗黙の政府保証のリスクを理解できていなかった。グリーンスパンはその点については警告を発していた*3。
- 銀行の簿外取引の拡大、およびそれとバーゼル2の景気循環に連動する自己資本比率規制との関係、そしてレバレッジの全般的な問題を見落としていた。2004年のSECの致命的とも言えるレバレッジ規制緩和や、クレジット・ブームの最中のストラクチャード・ファイナンスの爆発的な膨張をきちんと報道できていなかった。
- 銀行システムの崩壊が実体経済に与える影響を評価できていなかった(それは規制当局者や経済学者も同じだが)。長い間、専門家達は金融経済と実体経済を別物として扱ってきたが、それは根本的に間違っていた。
- 規制緩和を称賛するあまり、その問題点、特に今回の危機の大きな原因となった店頭派生商品市場の規制の欠如の問題を見落としていた。グリーンスパンはそうした規制に反対していたが、それを問題視すべきだった。
最後には、2つの信用バブルのほかにも、イスラム過激派のテロ、中国経済の台頭といった過去10年間に起きた重要な出来事も事前に予見されなかったが、マスコミは欠点があるとはいえ鉱山のカナリアの役割をこれからも果たすべきだし、また果たしていく力がある、と反省とも自己鼓舞ともつかない言葉で締めくくっている。