日本が不況になった際、清貧の思想や清貧のすすめのような、不況もまたよし*1とする思想が流行ったことがあった。
FTのコラムでも、今回の経済危機を受けて同様の趣旨のことを書いているものがあったので、紹介してみる。筆者は、デビッド・マーシュというロンドン&オックスフォード・キャピタル・マーケッツなる金融会社のチェアマンという地位の人物(著書の邦訳もある)。
ここ2年もの間、我々はお涙頂戴の物語や没落の顛末を散々聞かされてきた。もし上げ相場が本当にまた戻ってきて経済・金融の惨めな話が終わりを告げた時、我々には停滞の時代を懐かしく思うに違いない16の理由がある:
- 役割分担が不明確になる。今は悪漢(銀行家)と善良な市民(それ以外)の分離が明確。
- 危機によってバードウォッチングや読書や刺繍の集いのような安価で社会的に見て建設的な娯楽が広く嗜まれた。またアグレッシブな活動が復活してしまう。
- 破滅の預言者が人気を博した。我々は奇妙なことにカサンドラが好きなのだ。また楽観主義者が憚ることになるが、彼らはより危険で平穏を乱す存在なのだ。
- 景気後退のさなかは飛行機もホテルもレストランもバスも空いていた。景気の良い生活が戻ってくると、混雑も戻ってくる。
- 価格が低下していた。皆それを望んでいたのでは?大インフレの時代がまた来てしまう。
- 中央銀行が人々の友人になっていた。ECBでさえ金利を下げていた。
- 誰も欲しがらないような商品を売っていた目抜き通りの商店は店じまいし、その代わりにアートギャラリーなど人々を啓蒙するようなテナントが入居していた。またけばけばしい小間物を売る店が戻ってきてしまう。
- 人々は食事の量を抑えていた。肥満は減少していた。家庭菜園がブームになっていた。経済成長が戻ると、国民の健康状態は落ち込む。
- 住宅価格が再びディナーパーティーの話題になる。人々はもう不動産のエージェントになるのを恥ずかしいと思わなくなる。息子・娘たちは、エコファーミングよりもまた投資銀行に行きたがるようになる。
- 新しい専門用語に慣れなくてはならない。「量的緩和」だけでも十分悪かったのに、景気回復時にはもっと語感が悪い言葉が出てくるだろう――「量的安定化」とか。
- 景気下降時はサービスが良かった。給仕は給仕し、案内嬢は案内し、ドアマンはドアを開けた。GDP成長=皆不機嫌になる。
- スケープゴートがいるのはいいものだ。皆喜んでジョージ・W・ブッシュやゴードン・ブラウンのせいにしていた。今度は景気回復がオバマのお蔭ということになるのか。彼は少し天狗になるだろう。で結局、反米感情が高まる。
- エネルギー消費がまた上がる。恐慌の時には地球温暖化を押さえ込んだように思うが、そうは問屋が卸さない。また新たな強いOPECと、あちこちに建てられる原発を我慢しなくてはならないだろう。
- 原油価格がまた1バレル100ドルを超えると、ロシア人を抑えるのが大変になる。ドミトリ・メドベージェフ大統領は笑顔よりもしかめ面が多くなるだろう。イラン人がどう振舞うかは考えたくもない。
- 経常収支の不均衡がまた手に負えなくなる。ドルが下落し、さらに悪いことに、為替ディーラーは売り浴びせるべき通貨がなくなる。
- 中国の輸出エンジンが再び唸りを上げると同時に、中国の存在感が高まる。中国語がEUの新たな公用語に、SDRではなく人民元が中央銀行の新たな公式通貨になるだろう。
経済が通常にもどったら、すぐに我々は新たな危機の芽吹きを見つけるだろう。そしてそれは2007-09年のものよりもずっと悪いに違いない。どうか楽しくお過ごしください!