フレディマックとファニーメイは金融危機に責任があるか?

表題の件を巡ってクルーグマンとラジャンの間に論争があった。

きっかけは、ラジャンの6/2FT記事。これにクルーグマン噛み付き*1、それに対しラジャンが最近開設した自ブログで反論した


okemosさんが指摘しているように、このテーマを巡る米論壇での論争は今に始まったことではない。たとえばEconomist's Viewは、6/3エントリで2人の衝突を取り上げると共に、過去の論争の例として一昨年のエントリを2つ(ここここ)挙げたほか、その2日後にもまたこの話題を取り上げている


ちなみに、このフレディマックファニーメイの責任論とほぼ必ずセットになって出てくるのが、地域再投資法(Community Reinvestment Act=CRA)も金融危機に責任があった、という話である(本ブログでも、以前、クルーグマンクリントンによるそうした見方への反論を紹介した)。今回のクルーグマンもラジャン批判の中でその話を持ち出しているが、それについてラジャンは「自分はCRAが大きな要因であると主張したことは無い」と軽くかわしている*2


クルーグマンとラジャンの論争の争点の一つは、フレディマックファニーメイの両GSEモーゲージ証券市場でどの程度のウェイトを占めたか、という点にある。クルーグマンモーゲージ証券全体における二社のシェアが2004-2006年に低下したことを両社の責任が乏しい証拠として示しているが、ラジャンは、サブプライム関連証券だけを対象にしたシェアを見るべき、と反論する。ラジャンによると、その値は2004年には44%に達し、2004-2006年に両社が購入した額は4340億ドルに上るという*3


あとは、こうした数字を基に両社の責任をどう判断するか、ということになるが、小生の見たところ、この件に関しては、2年前のEconBrowserにジェームズ・ハミルトンが書いた以下の記述が最も中立的かつ的を射ているように思われる(Economist's Viewの2008/7/16エントリ経由)。

In the mean time, I very much agree with Krugman that the most egregious problems were not caused by anything Fannie or Freddie themselves did. But I disagree that their actions played no role in causing the underlying problem we face today.
(拙訳)
取りあえず、最も深刻な問題はファニー・フレディ自身が取った行動によって引き起こされた訳ではない、ということに関しては、私はクルーグマンに大いに賛成する。しかしながら、彼らの行動が、今日我々が直面している根本的な問題の発生に何ら関わっていない、という見方には賛成しない。

ここで言及されているクルーグマンは、具体的には2008/7/14のNYT論説を指している。


またハミルトンは、上記のEconBrowserエントリで、Calculated RiskにおけるTantaの7/14エントリ*4も引用している。そこでTantaは、両社をまったく免責するようなNYT論説のクルーグマンの記述は行き過ぎ、と述べると同時に、両社が購入したサブプライム証券はある程度の基準をクリアしており、本当に有毒な証券は引き受けていない、と指摘している。実際、もしそうした両社の基準がサブプライム市場全体に適用されていたら、状況はここまでひどくなっていなかったはずだ、とまで彼女は述べている。もしこれが本当ならば、単に両社のサブプライム証券におけるシェアのみに着目したラジャンの分析は皮相的に過ぎる、という見方も成り立ちそうである(実際、ラジャンのエントリのコメント欄では、Tantaの同エントリをリンクしてその点を指摘している人もいる)。

*1:night_in_tunisiaさんの訳はこちら

*2:ただしこれについては、コメント欄で次のように批判されている:
「First, while your did not mention the CRA in your FT article, you did in your book (p. 36-37) and specifically that stricter enforcement of the CRA under the Clinton Administration laid the foundation for the housing credit boom in the 2000s. Plus, your frequent general mentions of inequality-driven populism leading to political pressures for credit expansion, a cursory reader would believe that you included the CRA in this as well.」
この「your frequent general mentions of inequality-driven populism leading to political pressures for credit expansion」についてはたとえばこちらを参照。そう考えると、今回のクルーグマンとラジャンの論争は、ここで考察したような右派と左派の経済のあるべき体制を巡る論争の一環と位置づけられるのかもしれない。

*3:ラジャンの次のエントリでは、より詳細な数字を記載した記事にリンクしている。

*4:亡くなる4ヶ月半前のエントリということになる(亡くなったのは同年の11/30)。