実は石油危機…なのか?

ジェームズ・ハミルトンが、2007-2008年の原油価格高騰なかりせば、米国の景気後退入りも少なくとも1年遅かっただろう、というブログ記事を書いている。曰く、いくつかの手法を使ってみたところ、共通の結論が得られた、その結論とは、2007年第3四半期から2008年第2四半期にかけての原油価格高騰が無かったら、2007年第4四半期から2008年第3四半期は景気後退局面ではなかった、との由。


特に面白いのが、彼が2003年の論文(注:閲覧は有料)で提示したモデルを使ったシミュレーション。これによると、2008年第4四半期のGDPの落ち込みも、石油価格高騰でほぼ説明できてしまうとのこと。さすがにこれにはハミルトンも驚いたようで、「自分自身この結果を完全には信じていない」と書いている。


そのほか、原油価格高騰のショックが少しラグをもってGDPに影響するというのが過去の石油ショックの特徴だが、今回もそれが当てはまる、と指摘している。


コメント欄では、石油価格低下の影響が書かれていないではないか、という批判があったが、それにはハミルトン自ら、上記の2003年論文とこの論文を見てくれ、と反論している。ちなみに、2003年論文のアブストラクト(これは無料で見られる)には以下のように書かれている。

This paper uses a flexible approach to characterize the nonlinear relation between oil price changes and GDP growth. The paper reports clear evidence of nonlinearity, consistent with earlier claims in the literature—oil price increases are much more important than oil price decreases, and increases have significantly less predictive content if they simply correct earlier decreases. An alternative interpretation is suggested based on estimation of a linear functional form using exogenous disruptions in petroleum supplies as instruments.

要は石油価格上昇と低下ではその影響が非対称的、ということのようだ。


また、このエントリの直前のエントリでは、原油価格高騰の原因についての分析も行なっている(この2つのブログエントリは、4/2のブルッキングス研究所での会合における発表に用いた論文の要約となっている)。ハミルトンのここでの結論は、原油価格高騰はやはり投機ではなくファンダメンタルズによるものではないか、というものである。その理由として、一つには、ファンダメンタルズによるものだとしても、需要の価格弾力性が0.06とそれほどとち狂った値にならないこと(ちなみにeliyaさんも同様の分析[ただし供給の価格弾力性が対象]を行なっている)、もう一つは仮に投機が原因だと仮定しても、やはり同様に低い需要の価格弾力性を仮定することになること、を挙げている*1

なお、GDPが2006-2008年に10%増加したのに対し、今までのところ(幸いにも)同様の減少が見られない一方で、原油価格が元の水準に戻ったことから、2008年上期に比べて下期は価格弾力性が高くなったのかもしれない、とも書いている。

*1:ちなみに論文では投機原因説の主唱者として投資ファンドを運営するMichael Mastersを挙げているが、この人はこの拙エントリで紹介したCBSの60ミニッツでもコメンテーターとして登場している。ひょっとするとハミルトンのこの分析も60ミニッツに幾分か刺激されたのかもしれない。